【医療ニュースPickUp 2018年5月15日】「高齢者の医薬品適正使用の指針」総論が固まる
厚生労働省は2018年5月7日までに、高齢者に対する薬剤処方の基本的な考え方となる「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」についての検討を行い、高齢者医薬品適正使用検討会の会合において大筋で了承されたと公表した。
この指針は、高齢者、特に複数の疾患が併存しやすい75歳以上に重点をおいて、診療や処方の際の参考情報となるよう作成されている。
高齢者は、加齢によって薬物の効き方が一般の成人と異なっていること、さらに、複数の診療科や医療機関より複数の薬剤を処方されて服用するケースが増えるため、薬剤同士の相互作用も起こりやすい。
全国の保険薬局での処方を調査すると、75歳以上のおよそ25%が7種類以上の薬剤を処方されており、5種類い以上を含めるとおよそ40%となる。
そこで今回、薬剤による有害な影響を回避するため、処方を見直す際の基本的な考え方や、よく使われる薬剤を高齢者に処方する際の留意点などについてまとめられた。
指針本文では、多剤服薬によるリスク増加、服薬の間違いや服薬のしにくさなど、多剤服薬によって引き起こされる患者への害を「ポリファーマシー」という言葉で定義しており、単に服用する薬剤数が多い状態とは区別した。
このポリファーマシーが形成される状況と、解消するために処方を見直す際のポイントや進め方などをフローチャートで示した。
その上で、処方を見直す際の一般原則を示すとともに、減薬する際の注意点や処方時の留意点を明示、さらに高齢者によく処方される下記の12種類の薬効群について、薬剤の使用と併用の基本的な留意点が別表1として添付されている。
A.催眠鎮静薬・抗不安薬
B.抗うつ薬(スルピリド含む)
C.BPSD 治療薬
D.高血圧治療薬
E.糖尿病治療薬
F.脂質異常症治療薬
G.抗凝固薬
H.消化性潰瘍治療薬
I.消炎鎮痛剤
J.抗微生物薬(抗菌薬・抗ウイルス薬)
K.緩下薬
L.抗コリン系薬剤
検討会では引き続き、指針(詳細編)についての骨子案作成にとりかかり、2019年1月の最終報告取りまとめを目指す方針。
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
高齢者と薬剤。これは、「加齢が要因となる疾患」が存在する限り、切り離せない問題ですよね。
今では合剤などもありますので、数十年前に比べると「一人の高齢者が一日に服用する薬剤」は、だいぶ少なくなっているのかもしれません。
それでもやはり、中年期以前の成人と比べると、首をかしげたくなるほどのお薬を持ち歩いている高齢者が多いと感じます。
特に、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの治療薬は、減らすことが難しい薬剤ですし、抗凝固薬は服用し始めると(一時的な服薬停止を除いて)生涯にわたって服用を続ける薬剤です。
また、催眠鎮静薬・抗不安薬、抗うつ薬、BPSDの治療薬なども、高齢者として日常生活を送るためには必要な薬剤ですので、減らすことが難しい薬剤に分類されるのだと思います。
ところで、今回の資料の中で定義された「ポリファーマシー」という言葉。その概要をまとめると、以下のようになります。
- 薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態のこと
- 何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化することが前提
- 薬物有害事象の症例数は、薬剤数にほぼ比例して増加する
- 6種類以上が特に薬物有害事象の発生増加に関連したというデータがある
- (だからといって薬剤数を減らせば良いわけではなく)3種類で問題が起きる場合があるため、本質的には「処方内容」が重要
患者さん自身が、「自分が服用している薬剤はコレ(薬剤含め)である」ことを明確に理解し、それを他の医療機関の医師に説明できるケースは、限りなく少ないと私自身は思います。
成人とその親世代である高齢者との関係で考えると、仮に自分の親(高齢者)に処方された薬剤でも、「風邪薬1週間分」などでは、細かい薬剤名まで覚えてはいないことがほとんどです。
お薬手帳が無いと、単に「●●先生のところで、風邪薬を1週間分処方された」という事実しか、伝えることは難しいでしょう。一緒に生活していなければ、家族であっても知らないのが現実です。
今のところは、複数の医療機関において「処方歴」を確認する手立ては、お薬手帳(アナログ、デジタルともに)が主流かとは思います。しかしテクノロジーがこれだけ発達した現在なのですから、「お薬手帳を携帯しなくても処方歴が分かる」仕組みの構築に、個人的には期待しているところです。
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