【医療ニュースPickUp 2015年11月4日】 遺伝子変異が血管肉腫の原因?特殊な融合遺伝子を解明
熊本大学および北里大学の研究グループは2015年11月2日、「皮膚がんの原因遺伝子を特定した」と公表した。皮膚がんの中でも、見逃されやすく、進行が早いことから治療が困難といわれている「血管肉腫」の発生に対し、特殊な融合遺伝子が関わっていることを確認したという。この研究成果は、アメリカの医学誌「キャンサー・リサーチ」にて発表(掲載)された。
特効薬の開発にも役立つ可能性も
研究グループは、血管肉腫のがん細胞の遺伝子解読を試みた。その結果、本来は別々に存在するはずの2つの遺伝子が、何らかの理由により融合していることを、血管肉腫の患者25人中9人の患者の遺伝子で確認した。
さらにこの融合遺伝子を含む細胞をマウスの皮膚に注射し、がん化することを確認した。しかし、マウスの細胞から融合遺伝子を除去すると、血管肉腫の細胞が減少することが分かり、血管肉腫の発生には融合遺伝子が関係していることが、明らかになったという。
そもそも血管肉腫とは、中年以上の頭部にみられることが多い、血管などの細胞から発生したがんである。一見しただけでは腫瘤があることに気付かないことが多く、見逃されることが多いがんでもある。
その一方で、リンパ節や内臓へ転移することが多く、進行がとても早い。放射線療法、化学療法、手術療法が一般的には行われるが、これらの治療が有効ではないケースが多く、根治が難しい、予後の悪いがんでもある。
また、後発年齢が中高年以降の年代であり、今後も高齢化がすすむ日本では、新しい診断法や治療法の開発の必要性が高まっていた。
融合遺伝子はこれまで、肺がん、白血病、悪性リンパ腫などでも確認されている。例えば肺がんの一部では、すでに特異的な融合遺伝子が発見されており、より有効性の高い薬物治療の指標となるなど、診断や治療方針の決定に深く関わっているものがある。
研究グループは「皮膚ガンの原因の解明のみならず近い将来簡単な診断、進行の速さの予測、そして特効薬の開発にも役立つ可能性がある」と期待している。
参考資料
熊本大学 皮膚ガンの原因遺伝子を特定!-遺伝子の異常な融合が皮膚ガンの発生に関わる-
http://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2015-file/release151102.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
私自身、手術室経験が10年近くありますが、「血管肉腫」の手術には関わった記憶がありません。胃がんや大腸がんなどと比較すると、実際の患者数も少ないがんではあるのだと思います。気になったので少し調べてみましたが、「頭皮原発血管肉腫は極めて稀な皮膚疾患だが、がんの肺転移に伴う“気胸”を高率に合併することが知られている」ものだそうです。好発年齢は60歳以上、好発部位は頭部(9割)だそうです。知らなかった。
中年以下の発症はほとんどないことから、免疫機能の低下が発症機序に関連する可能性が高い、と考えられているそうです。
日本人全体でみるとそうそう発症頻度が高いものではなさそうですが、これからの日本の状況を考えると、患者さんも増えそうですし、新たな治療の第一歩となる、とても有意義な研究なのだと思います。
しかし、本来2つの遺伝子が1つに融合してしまう原因って、何なのでしょうか。持って生まれたものだとすると(多分、そうなのでしょうけど)、もっと若いうちに遺伝子検査で将来のリスクを判定、なんてことになるのかな?と、個人的には考えます。
血管肉腫だけではなく、他のがんでもみられるようですので、こういった「持って生まれた融合遺伝子による将来予測」というビジネスも、いずれ出てくるかもしれませんね。
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