【医療ニュースPickUp 2017年6月22日】脳神経細胞死を抑制するたんぱく質を発見 共同研究チームの研究結果より
2017年6月19日付の米科学誌「デベロップメント・セル」で、国立長寿医療研究センターと国立遺伝学研究所、首都大学東京の共同研究チーム(以下、共同研究チーム)が、「たんぱく質『EDEM(α-マンノシダーゼ様タンパク質)』が脳神経細胞の死滅を抑制する役割を果たしている」ことを発表した。
今回の共同研究チームによる研究ではショウジョウバエを用いたが、このEDEMをつくる遺伝子は人にも存在し、新たな治療法を開発する手掛かりになると期待されている。
細胞内には「小胞体」というたんぱく質の品質を管理する袋状の器官がある。小胞体に、正しい構造をとっていない異常なたんぱく質が蓄積すると、「小胞体ストレス」という現象が引き起こされる。
しかし、ストレスを緩和する「小胞体ストレス応答」や、異常なたんぱく質が細胞質に戻って分解される「小胞体関連分解」が起こることで、蓄積された異常なたんぱく質は減少し、小胞体が守られるシステムがある。
一方で、異常なたんぱくが過度に蓄積して処理能力を超えると、細胞は個体を守るために自ら死に至る(アポトーシス)。こうした異常なたんぱく質が過剰になることで「細胞死」が増加すると、その個体には様々な疾病が引き起こされる。アルツハイマー病など、神経変性疾患の患者では、慢性的に小胞体ストレス応答が高い値を示すことが分かっている。
今回の実験で使われたのは、脳神経細胞にある小胞体に異常なたんぱく質が過度に蓄積し、神経変性疾患に似た、運動機能の低下や神経細胞死がみられる“ショウジョウバエ”だ。共同研究チームが脳神経細胞で生み出されるEDEMを人為的に約2倍に増やしたところ、異常なたんぱく質の蓄積量が減り、神経細胞死を抑制するという結果が得られた。
これはEDEMが「小胞体ストレス応答」の機能を損なうことなく、「小胞体関連分解の加齢に伴う機能低下」を抑制するという働きを持つことが示唆されたことになる。
さらに、小胞体は神経以外の細胞にも存在し、筋肉細胞でEDEMが増加すると老化に伴う運動機能の低下が抑えられ、腸の細胞で増やすと寿命を延長する効果もみられたという。
今後の研究成果により、さまざまな慢性疾患の治療に道が開けると期待されている。
参考資料
Developmental Cell
http://www.cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807(17)30427-6
https://medical.jiji.com/news/7347
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00432536
http://leading.lifesciencedb.jp/4-e009/
http://www.frontier.kyoto-u.ac.jp/bf01/j/research.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回は、「脳内の脳神経細胞死を抑制するたんぱく質」に関する研究です。今はまだ、研究対象が「ショウジョウバエ」ではありますが、今後さらに研究が進むと、やがて哺乳類からヒトの脳に作用する何かが生まれてくるのかもしれません。
日本だけを見ても、2025年には700万人を突破すると言われている認知症。世界レベルでは、2050年には1.3億人になるともいわれています。このうち、アルツハイマー病の方は半数以上、6割程度を占めると考えられていますので、それが予防できる可能性は、非常に有意義なのではないでしょうか。
現在のところ、あくまでも「可能性」なのかもしれませんが、その他の器官、筋肉や腸管でも「老化を防ぐ」ことができるなら、「健康寿命」ももっと長くなるのかもしれません。
少し古い情報ですが、数年前には「糖尿病がアルツハイマー病の危険因子となるメカニズムを解明」という研究成果の発表もありました。これは「久山町研究」の延長ともいえる研究ですが、糖尿病って、本当に色々な影響を人体に及ぼす、やっかいな疾患ですよね。
しかし今回の研究成果からは、「人は長生きしすぎる動物なのでは?」という気がしてきます。本来の人体が持つ機能では、老化による変化を抑えきれないからです。
果たして、ヒトの体は100歳を超えるように出来ているのか?そうではないからこそ、長生きするための努力を、していかなくてはないらないのかもしれません。
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