【医療ニュースPickUp 2016年1月16日】脳出血後の集中的なリハビリ効果を解明 脳の「配線を変える」仕組みとは
2016年1月14日、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)と名古屋市立大の研究グループは、「リハビリテーションは脳の配線を変え、機能の回復を導く」という研究成果を公表した。この研究成果は、米国科学誌「Journal of Neuroscience誌」の2016年1月13日号に掲載された。
マヒ側の前肢を一週間集中的に使用
脳卒中なでにより脳が損傷を受けると、損傷を受けた部位により、四肢にマヒが現れる。これまでにも、脳卒中後の患者に対してリハビリテーションを行うことで、損傷を受けた部分が再編成され、マヒが起きている四肢の機能が回復することは分かっていたが、詳細なことは分かっていなかった。
研究チームは今回、脳幹部に存在し運動にかかわる神経核である「赤核」と、大脳新皮質に早産し随意運動を司る「運動野」の結合に注目し、リハビリテーションによる四肢機能の回復メカニズムについて研究を行った。
研究チームは今回、脳出血を起こしたラットに対して「マヒ側の前肢を一週間集中的に使用する」というリハビリテーションを行うことで、前肢の運動機能の著しい回復と、運動野における手の運動に相当する領域の拡大を見出した。
これに加え、リハビリテーションを実施したラットと、訓練を行わなかったラットを比較すると、リハビリテーションを実施したラットでは、運動野から赤核へ伸びる神経線維が増加している事を発見した。
さらに、ウィルスベクター二重感染法を使い、この運動野と赤核を結ぶ神経回路の機能を選択的に遮断すると、リハビリテーションによって回復した前肢の運動機能が、再び悪化することを証明した。
これらの結果から、リハビリテーションによって、神経回路の再編成(運動野-赤核間の神経回路の強化)が起き、運動機能の回復に寄与していることが実証された。
今回の研究成果は、脳出血後に行う集中的なリハビリテーションにより、大脳皮質運動野と赤核の間にある神経結合を増加させ、結果的に運動機能を回復することを見出した。
また、リハビリテーションによる運動機能の回復にはこれまで、「運動野-脊髄間の投射」が重要であると考えられてきたが、「運動野–赤核路」の利用によって、機能を代償する可能性が示唆された。
これらの「代替経路」を効率よく活用するメカニズムや、効果的な手法を明らかにすることで、リハビリテーションにより、さらなる機能回復が可能になると期待される
参考資料
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
プレスリリース リハビリテーションは脳の配線を変え、機能の回復を導く
―脳卒中後の麻痺肢の集中使用による運動野-赤核路の増強は、運動機能の回復と因果関係を有する―
http://www.nips.ac.jp/release/2016/01/post_311.html
Journal of Neuroscience
Causal Link between the Cortico-Rubral Pathway and Functional Recovery through Forced Impaired Limb Use in Rats with Stroke
http://www.jneurosci.org/content/36/2/455.short
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
脳って面白いですよね。
学生のころ、脳のホムンクルスの図を見たときには「何だこれ!?」と衝撃を受けましたが、それと同時に、「脳のどの部分が体のどこを動かすのか」を解明した人ってすごい」と思いました。今見ても絵としては微妙ですが、でもやっぱり面白いです。
少し古いデータですが、日本のいわゆる脳卒中の患者さんは150万人にせまるくらい。そのうち、かつては脳出血>脳梗塞でしたが、現在は脳出血<脳梗塞 で、脳出血の方が減っています。とはいえ、脳卒中で亡くなる人はおよそ15万人くらい(脳梗塞+脳出血)ですから、リハビリを続けながら生活している人もとても多いわけです。
より効果的なリハビリの方法なども、もっとわかってくると良いですよね。
ところで今回の研究は、脳出血が対象だったようですが、脳梗塞やクモ膜下出血ではどうなるのでしょうか。現在の日本では脳梗塞の方が増えているわけですし、そのあたりの研究がもっと進むと良いなと思います。
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