【医療ニュースPickUp 2016年4月17日】慢性疼痛のメカニズムを解明、新しい治療法への道
2016年4月13日、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所は、「末梢神経損傷によって未熟化した神経膠細胞(グリア細胞)が 難治性慢性疼痛を起こす脳内回路を作る」ことを解明したと公表した。
「触っただけで過剰な反応を示す」というメカニズム
この研究は、自然科学研究機構 生理学研究所の鍋倉淳一教授、山梨大学の小泉修一教授、福井大学の深澤有吾教授、理化学研究所の御子柴克彦チームリーダー、韓国慶熙大学校の金善光博士らの共同研究グループによるもので、研究成果は、Journal of Clinical Investigation誌に掲載される(2016年4月12日よりオンライン版にて掲載されている)。
例えば、事故などで外傷を負った後、受傷部位が治癒していたとしても、人によっては、長期間にわたり疼痛を訴えることがあり、この様な病態を「難治性慢性疼痛」という。これまでは、この病態に対しする脳内メカニズムについては、ほとんど明らかにはされて来なかった。
今回、研究グループでは、四肢などの末梢神経を損傷した後、慢性疼痛がみられることに注目。過去の研究では、脊髄などの「痛覚を伝える経路の変化」については明らかになっているが、今回の研究はこれまでの研究に加え、脳内での変化を観察した。
その結果、大脳皮質にある「皮膚の感覚情報」を処理する脳部位においても、神経回路そのものに再編成が起こり、結果的に末梢感覚刺激に対する過剰な反応をする仕組みが作られることが分かった。
研究グループはまず、この現象の神経回路メカニズムを明らかにするため、下腿の末梢神経を損傷したモデルマウスを作った。その後、マウスの脳を生きたまま観察することができる特殊な顕微鏡を用いて、末梢神経を損傷したマウスの脳内を長期間にわたり繰り返し観察した。
その結果、「疼痛」や「触覚」を感知する大脳皮質で、アストロサイト(グリア細胞)が未熟化し、トロンボスポンジンという物質を放出することで、神経回路の再編成が起こり、「触っただけで過剰な反応を示す」というメカニズムを作り出していることが分かった。
今回の研究成果は、難治性痛覚異常がみられる患者に対し、「大脳皮質アストロサイトをターゲット」とした予防法や、新しい治療法や薬剤の開発につながるのではないかと、期待されている。
参考資料
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所
末梢神経損傷によって未熟化した神経膠細胞(グリア細胞)が 難治性慢性疼痛を起こす脳内回路を作る - 難治性慢性疼痛の予防・治療に期待 -
http://www.nips.ac.jp/release/2016/04/post_318.html
Cortical astrocytes rewire somatosensory cortical circuits for peripheral neuropathic pain
https://www.jci.org/articles/view/82859
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
私自身、痛みの閾値が低いのか、「痛み」は一番不快に感じる感覚のような気がします。朝起きて頭痛があると、その日は一日中、機嫌が悪くなりますし、歯が痛くなると色々なことが手に付きません。幸いにして、今のところは慢性疼痛に悩むことはありませんが、「痛み」がずっと続くという生活は、考えただけでも辛いだろうなと思います。
しかし、考え方によっては「実際の痛覚や触覚が何倍にも増大されている」ことになるのでしょうか。実際の痛覚や触覚が1だとすると、それを脳内で何倍にも増大させ、「とても痛い」と思わせているわけですよね。周りから見ると「これくらいでそんなに痛い?」と思うことが、本人の脳の中では何倍にも増大されているわけですから、そう考えると、脳ってやはり不思議な臓器なのだと思います。
今回の研究は、マウスの脳内を観察して分かったことですが、これとほぼ同じことがヒトの脳内でも起こるのであれば、世の中の慢性疼痛で苦しむ人にとっては、新しい治療法への期待感が大きくなりますね。実現するまでにはまだまだ時間がかかるとは思いますが、かなりの朗報なのではないかと思います。
今回は「ケガによる慢性疼痛」がテーマだったようですが、例えば「痛風」とか「慢性関節リウマチ」など、常に「痛み」を感じる疾患(病態)は他にもありますが、この場合の「痛み」の感じ方とは違うのでしょうか。今後のさらなる研究にも、期待したいと思います。
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