【医療ニュースPickUp 2015年7月25日】 類似した名称の薬剤の取り違え 薬剤師の忙しさと思い込みが原因か
2015年7月27日、「『デュファストン®錠』と『フェアストン®錠』の取り違え事例」に関する注意喚起が、両剤の販売元であるアボット・ジャパン(本社:東京都港区)および日本化薬(本社:東京都千代田区)から公表された。この情報は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)のサイトでも公開されている。
薬剤師の「思い込み」により調剤か?
今回取り違えが発生した薬品は、女性ホルモン剤 デュファストン®錠(一般名:ジドロゲステロン、販売元:アボット・ジャパン)、閉経後乳がん治療薬 フェアストン®錠(一般名:トレフェンクエン酸塩、販売元:日本化薬)の2剤である。
1例は、不妊治療のために通院中の患者に対し、医師が処方した「デュファストン®錠」と間違え、病院の薬剤師が「フェアストン®錠」を調剤した。患者はそれまでも、1日2回1錠ずつ服用しており、今回も朝と昼の計2回、2錠を服用した。その後、患者は薬の間違いに気づき、薬剤の交付から2日後に病院へ連絡し、発覚した。
もう1例は、医師から「フェアストン®錠」を処方された患者に対し、調剤薬局にて「デュファストン®錠」を調剤した。その場では気付かなかったが、帰宅後に違う薬剤であることに気付いた患者から連絡があり、取り違えが発覚したという。
いずれのケースも、いくつかの要因が重なった結果、取り違えとなったことが指摘されている。
まず1例目のケースの場合、この病院の薬剤棚には、両剤が「使用頻度の低い」ものとして、同一列に配置されていた。デュファストンの薬剤名ラベルは黒字で記載、フェアストンは劇薬のため赤字で記載されてハイリスク薬を示す「H」の文字は付いていたが、抗がん剤を示す表示はなかった。
薬剤師は急いでいたため、処方箋監査および調剤の段階で、1人でチェックをしていた。調剤監査のみ別の薬剤師が行ったが、処方箋を見ながらのピッキングや、薬袋に入った薬剤の「薬剤名確認」を行わなかった。さらに、薬剤交付時に行うべき「患者との薬剤の確認」や、「患者への薬剤の説明・指導」も行っていなかった。
2例目のケースの場合、調剤・監査時に行われるべき確認作業を怠ったことが挙げられている。さらに両剤とも同じ「産婦人科」で処方される薬剤であることから、薬剤師の「思い込み」により調剤されたことも指摘されている。
いずれのケースも、PMDAの「ヒヤリ・ハットト報告事例」として挙がっており、PMDAでは注意を呼び掛けている。
参考資料
PMDA 「デュファストン®錠」と「フェアストン®錠」の取り違え事例発生のお知らせ
https://www.pmda.go.jp/files/000206336.pdf
同上 デュファストン錠 添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2478003F1031_2_02/
日本化薬 フェアストン錠 添付文書
https://mink.nipponkayaku.co.jp/product/di/te_file/sedi_fart_te.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
このニュース、個人的に怖いと思ったのは、実際に起こり得ること(起こっていること)である、という点です。確かにどちらも「産婦人科」で処方される薬剤ですが、一方は抗がん剤であって、そのまま気付かなければ、きっと副作用だけではなく、かなりの問題に発展する可能性がありますよね。
フェアストン錠の添付文書を読むと、禁忌として「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳婦 [本剤の効能・効果は「閉経後乳癌」であり、また動物実験で生殖毒性が認められている。]」とあります。1例目の患者さんは不妊治療中なわけですから、ご本人の気持ちとしてはものすごく複雑なのではないでしょうか。この「禁忌」に書かれている内容は、かなりのストレスだと思います。
一方、2例目の患者さんは服用されなかったようですが、気付かずに数日間服用していたら…かなり患者さんにとってもストレスですよね。
薬局の薬剤師さんを見ていると、非常に多忙であることは分かります。薬剤師さんだって人間ですから、間違いはあります。しかしそれを起こさないためのシステムが働かなかったというのは、非常に大きな問題として捉える必要がありそうです。
医師、看護師だってこういった医療事故を起こす可能性は、十分にあります。こういったニュースをきっかけとして、気を引き締めないといけませんよね。
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