【医療ニュースPickUp 2015年12月10日】魚介類摂取により、膵がん予防につながる可能性 国立がん研究センター
2015年12月8日、国立がん研究センターは、多目的コホート研究(JPHC Study)から「魚介類およびn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)と膵がんとの関連を検討した成果」により、膵がんに対する食との関係を公表した。
魚介類に多く含まれるn-3 PUFA(エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)の総量、以下魚介類由来n-3 PUFA)、およびDHA摂取により、膵がん罹患リスクを低下させる可能性が示唆されたという。尚、この研究結果は、American Journal of Clinical Nutritionにて公開されている。
膵がん予防に寄与する可能性が示唆される
膵がんはそもそも、早期発見が非常に困難であり、確定診断が出たときには、すでに治療方法が限られてしまうケースが多く、予後の悪いがんの1つである。このため、膵がんに対する予防法の探索は、重要な研究課題となっている。
これまで、膵がん発症リスクとして、たばこ、肥満、糖尿病、慢性膵炎などとの関連が報告されており、さらにこれまで多くの疫学研究において、膵がん予防に効果が期待される食の因子が検討されてきた。
しかし、食に関しては、未だ明確な回答が出ていない現状にある。そこで、日本人集団は欧米諸国よりも魚の摂取量が比較的多いことから、魚介類によるn-3 PUFA摂取量と、膵がん罹患との関連について調査を行ったという。
今回対象となったJPHC Studyとは、次のような研究である。
- 1990年と1993年に、日本国内の9保健所(岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古)管内に居住する住民
- このうち、1995年と1998年にアンケート調査に回答した45~74才の男女約8万2千人が対象
- その後、2010年末まで追跡した調査結果に基づき、魚介類、n-3 多価不飽和脂肪酸(PUFA)摂取量と膵がん罹患との関連について調査を行った
これらのデータに対して解析を行ったところ
- 追跡期間中に449例の膵がん罹患があった
- 解析した結果、魚介類由来n-3 PUFAの摂取量が最も少ないグループに比べ、最も多かったグループで約20%、膵がん罹患リスクの低下を認めたが、統計学的に有意ではなかった
- 次に「追跡開始3年以内に膵がんと診断された被験者」を除外して解析した結果、魚介類由来n-3 PUFA、DHAの摂取量が最も少ないグループに比べ、最も多かったグループで約30%、統計学的有意に膵がん罹患リスクの低下が認められた
という結果となった。
国立がん研究センターは今回の研究結果より、「魚介類由来n-3 PUFA、DHA摂取により、膵がん予防に寄与する可能性が示唆された」としている。
参考資料
国立研究開発法人 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター
2015/12/07 魚介類およびn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)と膵がんとの関連
http://epi.ncc.go.jp/jphc/745/3750.html
同上 魚介類、n-3多価不飽和脂肪酸摂取と膵がん罹患との関連について
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3749.html
Fish, n-3 PUFA consumption, and pancreatic cancer risk in Japanese: a large, population-based, prospective cohort study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26537936
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
昔から、日本人は魚をよく食べる国だと言われています。確かに、スーパーに行けば魚がたくさん並んでいますし、江戸時代やもっと古くの時代から、魚の行商を生業とする人も多かったのでしょう。
日本は四方を海に囲まれた国ですので、肉よりも魚が多く取れたという背景もありますし、生魚、特に青魚を好んで食べるという国民性もあると思います。特に、サバやサンマを使った「焼き魚定食」って、日本食の代表のようなメニューですよね。
魚介類に含まれる「DHA」が健康に良いといわれ始めたのは、いつごろからでしょうか。
国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」のサイトには「年齢調整死亡率の国際比較では、以前は日本の膵臓がんの死亡率は低いレベルでしたが、1960年代から80年代後半まで増加し、欧米諸国並みになった後、緩やかに増加しています。
罹患率の国際比較では、日本人は国際的にみて高いレベルにありますが、最も高いのはアメリカ黒人です。」とあります。単純に考えると、日本人の食生活は、1960年代頃から欧米化により魚離れが進んだものの、1980年代までには「魚を食べる」習慣が見直されてきた、ということかもしれません。
膵臓がんの5年生存率は、Ⅰ期でも35%、全ステージでは8.5%くらいしかありません。膵臓は、血糖を下げるただ一つのホルモン、インスリンを絶え間なく作り続けている、とても働き者な臓器なのですから、大事にしたいですよね。
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