【医療ニュースPickUp 2016年3月17日】HPVワクチンの健康被害 患者8割に同じ遺伝子 厚労省研究班の調査
2016年3月16日、厚生労働省、ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究事業成果発表会を開催した。その中で、子宮頸がんワクチン(以下、HPVワクチン)接種後に健康被害があった患者らを診療している、厚生労働省研究班代表の池田修一 教授(信州大学 脳神経内科)により、これまでの調査結果が報告された。
突然、脳症状で発症するケースも
報告によると、HPVワクチン接種後の副反応疑いで診察を受けた患者は、192名だった。
内訳は、信州大学 38名、東北大学 4名、千葉大学 7名、東京慈恵会医科大学(重複受診あり) 79名、近畿大学 9名、愛媛大学 5名、山口大学 10名、鹿児島大学(重複受診あり) 40名となっている。
信州大学で診察を受けた患者の中には、起立性調節障害や四肢のCRPS、反応性多発関節炎などを発症している、あるいは疑われるケースがあった。また、遷延性高次脳機能障害を発症した患者もおり、四肢の症状が軽快した後に脳症状が出現、あるいは四肢の症状は欠けているもののHPVワクチン接種後2年前後に突然、脳症状で発症するケースもあったという。
池田教授らは、これらの患者に対し、信州大と鹿児島大において、HPVワクチン接種後の脳機能障害(学習障害や過剰な睡眠など)が見られた患者らの血液を採取し、「HLA」の遺伝子型に注目して、関連性を調査した。
その結果、「HLA-DPB1 05:01」型の遺伝子を持つ患者が、信州大での被験者14人中に保有者が10人(71%)、鹿児島大での19人中保有者が16人(84%)いたことが分かった。
「HLA-DPB1 05:01」遺伝子型を持つのは、アジア地域に多く、中でも日本人や中国人に多いといわれている。しかし、一般的な日本人の集団での保有率は、36%程度であり、今回の被験者集団との間で、大きな違いがみられた。
池田教授らは、今後の研究課題として
子宮頸がんワクチンの副反応の病態解析と新規治療法開発を神経内科的観点から行う
- 患者の長期経過の解明(長期予後の観察が重要)
- 脳障害の責任病巣の検討と有効な治療法の確立
- 神経障害性自己抗体の検索
同ワクチン副反応の感受性遺伝子の検索(HLA)
同ワクチン副反応解析のためのモデル動物の作成
などを挙げている。
今後は、HLA allele DNA typingを対象者を150名に拡大して行い、疾患感受性に相関するHLA抗原の分子機構の解明、ならびにHPVワクチン接種後副反応の予防法の提唱につなげたいとしている。
さらに「診療科(神経内科、精神科、婦人科、小児科、麻酔科など)、 各施設、研究班間での相互協力、連携が不可欠である」とまとめている。
また、別の研究班からは「慢性の痛みとHPVワクチン接種後の痛みについて」の研究成果も報告されている。痛みを引き起こす原因があると、精神心理的な問題が起こり、これらの影響により、結果的に難治性の身体的変化を起こす可能性があるという。こちらの研究班でも「専門医チーム同士の協力=研究班の連携強化が必要」としている。
参考資料
厚生労働省 ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状に関する厚生労働科学研究事業成果発表会
子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究 池田修一氏 発表資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000116634.pdf
同上 慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究 牛田享宏氏 発表資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000116635.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「HPVワクチン接種後の健康被害に、遺伝子タイプが関連していた」というのは、驚きでもありますが、何となく理解できるような気もします。一般日本人およそ4割に対し、健康被害を訴える患者さんが8割というのは、単純に考えても2倍の確率ですから、どこかしら、似ている部分があるのかもしれません。
個人的には、もう1つの研究成果も興味があります。人は「痛い」や「不快」と感じると、そういう類の話を聞くだけで、「痛い気がすると感じる」、というものと理解しました。特にHPVワクチン接種対象年齢の女の子は、集団心理というか、「○○だから、きっと△△」と感じる(思い込む)ことが、多いように思います。
そういった年代・性別の中で、「ワクチン接種が非常に痛いものだと感じる → 他の部分も痛いような気がする → 「痛み」に対する恐怖心が強くなる → 全身的にも調子が悪くなる → 痛みの悪循環が起こり、骨や筋肉が拘縮する、という流れがある」といわれても、あまり不思議には感じませんでした。ま、そうだろうな、というのが個人的な感想です。自分自身で通ってきた道だからでしょうか。
「HLA-DPB1 05:01」という遺伝子タイプが、全身のどこの部分に影響しているものなのかは分かりませんが、見た目や体形、考え方などが似てくるようなものであれば、欧米諸国などに比べ、日本や中国、アジア地域で「HPVワクチン接種後の健康被害が多い」となっても、不思議はないと思います。
今後、さらに研究が進むと、「健康被害を起こしやすいタイプ」を事前に調べることで、ワクチン接種をするか否かを判断できるようになるのかなと思います。
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