【医療ニュースPickUp 2015年12月19日】不整脈薬が認知症進行予防に寄与するのか 国立長寿医療センターの研究より
2015年12月16日、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の添田義行脳科学推進プログラム研究員、高島明彦分子基盤研究部長らの研究グループが、アルツハイマー型認知症の原因となる「神経細胞脱落」を抑制する薬剤を発見したと公表された。この実験結果は、12月16日付で、Nature Communications誌に掲載された。
アルツハイマー型認知症の治療薬開発貢献に期待
この研究は、理研が管理する天然化合物ライブラリーの中から、認知症の原因物質とされる「タウ蛋白質が体内で凝集することを抑制する化合物」に対するスクリーニングを行ったもの。研究グループはこれらの化合物うち、ドーパミンやアドレナリンのような「カテコール核」をもつ薬剤により、タウ蛋白質凝集が阻害されることを見出したという。
具体的には、カテコール核を持つ化合物のうち、D/L―イソプロテレノール(注:除脈や気管支喘息の治療に使用される「イソプロテレノール」)を、モデルマウスに3か月間経口投与した。すると、タウ凝集の阻害および神経細胞脱落の抑制が確認され、さらに神経活動の低下や異常行動の改善も確認された。
これまでの研究では、「タウ蛋白質」により、脳細胞における神経細胞の脱落を引き起こすと考えられてきた。しかし、これらの相関は明らかになっておらず、今回の実験によって、タウ蛋白質の凝集を阻害することと、神経細胞脱落の抑制との関連、さらにそのメカニズムに高い有効性を持つ薬剤が明らかとなった。
この研究成果は、アルツハイマー型認知症に対する、これまでのβアミロイドを標的にした治療とは異なり、病態に直接関与する「タウ蛋白質凝集抑制」のメカニズムを、初めて明らかにした報告となる。今後のアルツハイマー型認知症の治療薬開発に、大きく貢献すると期待されている。
参考資料
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 お知らせ
認知症の治療薬開発に道拓く―長寿医療センターが理研、同志社大と共同で「神経細胞脱落」の抑制実験に成功―
http://www.amed.go.jp/news/release_20151216.html
Nature Communications
Toxic tau oligomer formation blocked by capping of cysteine residues with 1,2-dihydroxybenzene groups
http://www.nature.com/ncomms/2015/151216/ncomms10216/full/ncomms10216.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本では、あと10年もすれば、65歳以上の5人に1人は認知症になるといわれています。全国ではおよそ700万人です。日本の人口ピラミッドを考えると、2025年頃には、65歳以上の人1人を、20~64歳の人がおよそ2人くらいで支える形になります。ごく単純に計算すれば、認知症の1人を、働く世代10人で支えることになるわけです。
そう考えると支えが多いようにも見えますが、医療者や介護者だけではなく、あらゆる職種の人や家族を平たくしての10人ですから、「認知症にならなない高齢者」が増え、「認知症になる高齢者」が減ることが、今後の重要な課題となっています。
こういった考えは、もはや日本だけではありません。2013年12月にロンドンで開催されたG8 dementia summitで「2025年までに認知症治療薬を開発すること」を目標とした宣言が行われているくらいですから、世界的なレベルで解決すべき問題になっています。
今回の研究は、「日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム」の「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究(課題F:脳老化研究チーム)」(平成27年度に文部科学省より移管)の一環として行なっています。
また、新学術領域研究(研究領域提案型)【脳タンパク質老化と認知症制御】からの補助を受け行われました。」とあります。つまりは国家予算からの助成で行われた研究です。個人的には、こういったところには予算をかけ、早いところ「認知症予防薬」などが出来ると良いなとは思います。
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