【医療ニュースPickUp】2015年2月18日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
「暗黒大陸」と呼ばれた小腸病変は、どこまで分かるようになるのか
2015年2月12日、富士フィルム株式会社(社長:中嶋 成博、本社:東京都)は、新型ダブルバルーン小腸内視鏡「EN-580XP」の発売を開始したと公表した。
スコープ先端部の外径を、7.5㎜まで細径化することを実現し、検査時の患者の身体的負担を、より軽減できるという。
従来製品である「EN-450P5/20(以降、従来機)」よりもスコープ外径が1㎜細くなり、なおかつ鉗子口径は2.2mmを維持しているため、従来機で使用していた鉗子類を使用できる。
また、近接(2mm~)での観察も可能となっている。高解像度と低ノイズを両立する独自開発の画像センサーと、新設計のレンズを搭載しているためだ。
これにより、従来よりも詳細な粘膜の観察が可能になるという。
小腸は数年前まで「暗黒の臓器」とも呼ばれていた。
経口でも経肛門でも、一般的な内視鏡では小腸まで到達できないため、小腸における病変を発見するのは困難であった。造影検査では、画像上で小腸が重なってしまい、細かい変化(病変)を捉えるのが難しかった。
また、CTやMRIのような画像検査でも、腫瘍や閉塞などの大病変は分かるが、炎症・潰瘍・血管病変まで捉えることは困難だった。
ところが、2003年にダブルバルーン内視鏡が実用化されたことで、小腸は「暗黒」の臓器から、「診る」臓器に変わった。
自治医科大学 内科学講座消化器内科が部門の山本博憲教授の考案によるダブルバルーン内視鏡は、開発におよそ5年を要したが、現在では100以上を超える医療機関で導入されている。
さらに日本だけではなく、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国など、40か国以上で評価され、普及しているという。
一方、小腸の検査にはもう1つ、カプセル内視鏡もある。
2000年にイスラエルで開発されたカプセル内視鏡は、2007年に日本でも保険適応となった。現在では日本の企業も開発しているものがあり、2014年には大腸へ保険適応が拡大されている。
かつては「暗黒」の世界であり、診ることが出来なかった小腸だが、現在では小腸病変は見逃してはならない病変として捉えられるようになっている。
従来考えられていた以上に、小腸には病変があることが分かってきている。クローン病をはじめとして、出血性潰瘍、低用量アスピリンを含むNSAIDsや抗凝固剤の服用による潰瘍性病変など、それまでは「原因不明」とされてきたものが、診断されるようになってきた。
ダブルバルーン内視鏡による小腸の検査は、経口と経肛門の2回で1セット。
検査時間も大腸や胃と比べると2倍以上となり、患者の負担は重くなる。
今回の富士フィルムの新製品「EN-580XP」は、より細く観察しやすくなったことで、患者の負担軽減につながるとしている。
価格は409万円。
参考資料
m3 新型ダブルバルーン小腸内視鏡発売
https://www.m3.com/clinical/news/295249
富士フィルム 先端部外径7.5mmを実現した汎用スコープ ダブルバルーン小腸内視鏡「EN-580XP」
新発売
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0957.html
神戸市立医療センター中央市民病院 カプセル・小腸内視鏡検査について
http://chuo.kcho.jp/department/clinic_index/gastroenterology/capsule
医療新聞社 治療と検査の最新医療情報 ダブルバルーン小腸内視鏡検査
【特別寄稿】自治医科大学 内科学講座消化器内科学部門 教授 山本 博徳
http://www.asahi.com/ad/clients/iryo/archives/ent/20080131000302.html
エーザイ www.pariet.jp 小腸病変に対するPPIの功罪
http://www.pariet.jp/alimentary/vol56/no576/sp07-01.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
昔は「病変がない臓器」「暗黒大陸」「ブラックボックス」など、散々な言われ方をしていた小腸ですが、実際に「診える」ようになると、いろいろな病気が隠れていることが分かるようになりました。
クローン病の確定診断がその代表例のようにいわれているところもありますが、実際に臨床でダブルバルーンやカプセル内視鏡を使っている医師に聞くと、「痛みどめ(NSAIDs)による炎症性疾患や潰瘍が問題」なのだそうです。
お腹が痛いとか、血便が出たという主訴で受診する患者さんは、最初から消化器内科などで診察しますので、「もしかして小腸?」という疑いを持つこともできるのですが、例えば整形外科とか脳関係とか、「痛みどめとしてPPI薬を長期間処方する」科を受診している患者さんには、実は小腸に炎症や潰瘍がある人も結構いるのだそうです。
ただ、消化器内科などへ紹介されることがまだまだ少ないので、見逃しているケースも多いだろう、と仰る先生もいらっしゃいました。
私の両親なども、腰が痛いとか膝が痛いとか、高齢になるとどこかが痛くなることも多く、確かに長期間にわたってロキソニン®+胃薬(ムコスタ®とか)を処方されています。
ちょっとくらいお腹が痛くても、少しくらい貧血でも、そのままなんだろうなぁ、と。どのタイミングで小腸検査をすべきか、患者側にも分かる指標が欲しいですね。
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