【医療ニュースPickUp 2018年6月1日】日本の食習慣で糖尿病や冠動脈疾患のリスクが減少する可能性
2018年4月までに、日本人の食習慣の一部が、2型糖尿病や冠動脈疾患(動脈硬化)の原因となるインスリン抵抗性と関連していることが、京都大学大学院糖尿病・内分泌・栄養内科学の池田香織氏、稲垣暢也教授らのグループの研究で分かった。
この研究では、魚や味噌汁、野菜を毎日食べ、夕食で主食や卵料理、果物をそれほど頻繁に食べない人は、インスリン抵抗性が低いという結果が出た。
研究に用いられたのは、滋賀県長浜市の住民を対象とした「ながはま0次予防コホート事業」のデータ。
2008~2010年に事業に参加した者のうち、採血前の絶食時間が10時間以上の4,327人(女性2,956人、男性1,371人)を対象に、食習慣とインスリン抵抗性・インスリン分泌能との関連を調べた。
なお、血糖降下薬やインスリン、ステロイドを服用している、低血糖や高血糖などの条件がある場合は、対象から除外された。
これらの被験者のインスリン抵抗性の指標HOMA-IRと、インスリン分泌能を示すHOMA-βについて、食習慣に関する20項目と喫煙習慣、病歴、糖尿病の家族歴、年齢、BMIとの関連を調べた。
食習慣については、朝食や昼食、夕食で米・パン・麺類などの主食を摂取する頻度、肉、魚、豆腐、卵、野菜や果物、牛乳、味噌汁の摂取頻度などを質問した。
それらを解析した結果、女性は毎日魚料理を食べるとインスリン抵抗性が基準の0.9倍に、毎日味噌汁を食べると基準の0.95倍になった。食習慣によりインスリン抵抗性がわずかながら低くなることがわかった。
また、炭水化物が多い主食を夕食で毎日食べるとインスリン抵抗性が高まり、これらの関連はインスリン分泌能でも同様の傾向があった。
男性では、野菜を毎日食べるとインスリン抵抗性が対照群の0.91倍と低くなる一方、卵料理を週に4~5回食べると対照群の1.14倍、果物を毎日食べると対照群の1.13倍と、インスリン抵抗性が高くなる傾向にあることが分かった。
こうした結果を踏まえ、研究グループでは魚料理や味噌汁、野菜を毎日摂取する人はインスリン抵抗性が低くなり、一方で夕食時の主食や卵料理、果物を多く摂取する人はインスリン抵抗性が高くなるとし、これらの食習慣が糖尿病や冠動脈疾患の発症に関連している可能性を指摘。特に味噌汁など、日本の伝統食による健康への寄与を再評価する必要もある、と述べている。
詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」7月号に掲載される。
参考資料
Dietary habits associated with reduced insulin resistance: The Nagahama study
https://www.diabetesresearchclinicalpractice.com/article/S0168-8227(17)31945-9/fulltext
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
日本人にとってなじみが深い「味噌汁」が、インスリン抵抗性と関連があることは、大きな発見なのではないでしょうか。
また、魚料理や野菜も、いわゆる生活習慣病に注目されるようになってから、「ぜひ食べておきたい食品」です。糖尿病を初めとする「生活習慣病」を予防する食生活として、肉よりも魚、野菜は多めに、というのは、いまや「日本人の基本的な食生活」として広く浸透していると思います。
ここで私自身が個人的に気になったのは、「野菜はどう調理すべきか」ということと「野菜はどこまでが推奨される食材か」ということです。非常に細かいことですが、どのような野菜がより良い食材なのか、どう調理すれば健康的なのか、毎日の食生活を考える時には、ここが気になります。
このニュース記事(研究内容)とは別に、ここ数年よく目にするキーワードとして「糖化ストレス」や「終末糖化産物(AGEs)」というのがあります。
要は「糖とタンパクが結合してできた物質」であり、それが体内に蓄積することで老化現象を引き起こす、という物質のようですが、ここ数年、このAGEsと糖尿病との関係に対する研究が行われているようです。
同じ食材でも、糖化反応を起こす調理法と、そうではない調理法では、体内に蓄積するAGEsが違ってくるとしたら、どうでしょうか。
例えば、「カボチャの煮物は良いがカボチャの天ぷらは糖尿病に近づく」とか、「同じ肉でも生やステーキではなく、スモークにすればより健康的」というのを、目にすることが増えてきたように思います。
これは「余分な脂肪分(つまりはカロリー)を摂らない」という意味で健康的なのかと思っていましたが、それだけではなく、AGEsの蓄積にも関係しているようです。
また、より多くの野菜を摂りたいなら、生野菜よりも温野菜の方が効果的ですが、油を極力使わず、より健康的に摂るなら「味噌汁に入れる」というのも納得できます。改めて「味噌汁」ってスゴイ食事なのではないでしょうか。
塩分にさえ気を付けるなら、「毎日1杯の味噌汁」は、日本人の体に合った食習慣なのだと思います。
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