【医療ニュースPickUp 2015年12月4日】どうなる診療報酬の改訂 保険者側と医療者側との対立が本格化?
2015年12月2日、厚生労働大臣の諮問機関である、中央社会保険医療協議会(=中医協)の総会が開催された。この中で、健康保険組合連合会の代表は、来年度改訂される診療報酬の引き下げを求めたのに対し、日本医師会の代表は、逆に引き上げることを主張した。政府は、年内に改定率を決定することとし、関係者の間での議論が本格化している。
政府は年内に改定率を決定したい考え
【健康保険組合で作る健康保険組合連合会などの主張】
- わが国は、急速な高齢化の進展に伴い、医療費は増加の一途を辿り、ついに国民医療費が40兆円を超えている
- 今後、一段と高齢化が加速するため、さらなる増加は避けられない。この状況がつづくと、経済成長は鈍化することが懸念される
- 政府はいわゆる「骨太方針 2015」において、社会保険料を含む国民の負担増は極力抑制するとの方向性を出している
- 一方、医療経済実態調査結果によると、全体的にみて、医療機関等の経営は中期的におおむね堅調に推移しており、その中で保険料の増加や患者負担につながる診療報酬の引き上げは、国民の理解を得られない
- 併せて、26 年度改定と同様に薬価・特定保険医療材料改定分(引き下げ分 を診療報酬本体に充当するのではなく、国民に還元する必要がある。
【日本医師会など医療費を受け取る側の主張】
- 医療機関等の経営状態は悪化している医療経済実態調査の結果などをみると、医療機関等は総じて経営悪化となっている。前回診療報酬改定が実質的にマイナス改定であったことや、消費税率引き上げに伴う補填も同時に行われたために多額の設備投資等などにより、経営悪化に繋がったと見られる。
- 超高齢社会に対応するため、地域包括ケアシステムの確立を含め、国民の安心・安全 の基盤のためには過不足ない財源投入が必要
- 団塊の世代が後期高齢者となる2025年までに、地域における医療資源の活用、超高齢社会にふさわしい医療機能の分化・連携体制のさらなる推進が必要。
- 医療には経済波及効果、雇用創出効果もあり、アベノミクスによる賃金上昇の方向性 と整合性を取るべき
- 薬価等引き下げ分は本体改定財源に充当すること
医療界側も、改革すべき点は改革する。診療報酬は医療機関等の経営の原資であり、国民に対し、質の高い医療を提供するためには、必要不可欠である。さらなるマイナス改訂を行えば、医療の崩壊を招くことになることから、政府は必要な財源を確保すべきだ。
診療報酬の改定をめぐっては、来年度予算案編成において、焦点の1つとなっている。政府は年内に改定率を決定したい考えだが、その前に関係の間で議論が本格化している。
参考資料
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第316回) 議事次第1号側委員提出資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000105861.pdf
同上 2号側委員提出資料
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000105862.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
診療報酬の改訂は、元医療者としてはとても気になるところです。
「医療者」としてみれば、引き下げになるとより安い医療材料を使わなくてはとか、給与に響くとか、給与が安くなるのに仕事が増えるなんてやっていられないなど、いろいろ考えてしまうことも多いのではないでしょうか。
逆に「患者」としてみれば、治療費は安くなる方が良いですし、薬も安くなる方が良いですよね。保険料だってこれ以上高くなれば家計に響くでしょうし、せっかくアベノミクス効果で給与があがっても、その分出ていくようであれば、嬉しさもありません。
最近では、薬価の引き下げや、調剤薬局に期待される役割が大きくなる傾向もありますし、薬剤師さんは大変だろうなと思います。
そもそも、日本はお金が無いのは周知の事実ですが、もっと削れるところは、本当にないのでしょうか。日本の財源として、労働人口の減少とともに収入は今後減っていくわけですから、どうやって支出を抑えるか、というのは分かります。
しかしそれで医療者側の「やる気」を削いでしまうことが、世界に誇れるような医療水準を落としてしまうことに繋がるのであれば、単に医療費を削るとか、健康寿命の延長だけではなく、「もっと他の方法で財源を得る」ことも、考えるべきなのではないかと思います。
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