【医療ニュースPickUp 2016年2月1日】抗がん剤投与による劇症1型糖尿病に関する周知 厚生労働省
2016年1月28日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、各自治体ならびに関係学会に向け、「ニボルマブ(遺伝子組換え)」(製品名:オプジーボ®)製剤使用時の劇症1型糖尿病に関する周知について(依頼)」を発出した。
日本では小野薬品工業が試験を行う
ニボルマブとは、ヒトが本来持っている免疫機能を強化し、がん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD-1抗体」と呼ばれる抗がん剤。販売元の小野薬品工業と、アメリカのブリストル・マイヤーズスクイブ社が共同開発を行い、アメリカで行われた治験では、非小細胞肺がん、前立腺がん、大腸がん、腎細胞がんなどの固形がん、および悪性黒色腫(メラノーマ)を対象に投与する試験が実施され、いずれも有効例が認められている。
日本では小野薬品工業が、非小細胞肺がん、腎細胞がんなどの患者を対象に安全性を調べるフェーズⅠ試験を行った。これらに対しても著効を示す例が出たとされているが、中でも予後の悪いメラノーマを対象とした開発を先行させたことで、2014年7月からは日本で、9月ではアメリカでもメラノーマを対象とした承認を受けている。
ニボルマブ使用については、劇症1型糖尿病の発症が確認されたことから、2015年11月に添付文書の改訂が行われ、注意喚起がなされた。
一方で、2015年12月には「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」への適応が承認され、さらに2016年2月からは、包括医療費支払制度の対象外となることが決まっており、今後は使用患者数の増加が見込まれている。そのため、厚生労働省では改めて、周知依頼を発出した。
劇症1型糖尿病とは、発症から1週間前後以内にケトアシドーシスに陥るなど、急激に重篤化し、適切な処置がなされなければ死に至るリスクが想定されている。
そのため、早期発見や適切な治療を速やかに行うことが重要となっている。ニボルマブは承認されて以降、現在までに因果関係が不明なものも含め7例(うち死亡例はなし)の「1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)」の発症が確認されており、2015年11月以降だけでも、2例の報告がある。
厚生労働省では今回、ニボルマブ使用中に「急激な血糖値の上昇、もしくは口渇・多飲・多尿・体重減少・全身倦怠感・意識障害などの糖尿病症状の出現を見た際には、劇症1型糖尿病の可能性を考慮し、専門医との緊密な連携の下早急な対処が必要」と、注意喚起を行った。
さらに患者に対しても、劇症1型糖尿病となる可能性や、注意すべき症状について、あらかじめ十分に周知しておくこと、としている。
尚、厚生労働省が示す「劇症1型糖尿病の診断基準」は、次の通り。
- 糖尿病症状発現後 1 週間前後以内でケトーシスあるいは ケトアシドーシスに陥る(初診時尿ケトン体陽性、血中ケ トン体上昇のいずれかを認める。
- 初診時の(随時)血糖値≧288mg/dL(16.0mmol/L)かつ HbA1c 値<8.7%※である。 ※劇症 1 型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は、必ずしもこの数字は該当しない。
- 発症時の尿中Cペプチド<10μg/日または空腹時血中Cペ プチド<0.3ng/mL、かつグルカゴン負荷後(または食後 2 時間)血清 C ペプチド<0.5ng/mL である。
参考資料
薬生安発 0 1 2 8 第 1 号 平 成 2 8 年1月 2 8 日
ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤使用時の劇症1型糖尿病に関する周知について(依頼) https://www.pmda.go.jp/files/000209607.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
ニボルマブについては確か、日本での承認を受ける少し前に、「過去30年で試みられた多くのがん免疫療法で、最も高い奏効率」という称賛を受けた、という記事を目にしたことがあります。
少し調べてみましたが、ニボルマブの特徴としては、がん種を問わないこと、(自己の免疫機能を強化させるので)副作用が少ないこと、末期がんでも効き始めたら長期投与により効果が期待できる、などがあったかと思います。
患者側からすれば、抗がん剤治療で1型糖尿病になるというのもいやですが、従来の抗がん剤よりも副作用が少なく、色々ながんに効く、末期でも効くというのは、夢の抗がん剤!にも見えます。適応範囲も広そうなので、次は前立腺がん、大腸がん、腎細胞がんなどへ、拡大するかもしれません(アメリカの方が早いか?)。
しかし、実は非常に高額。年間1500万円くらいかかるそうですね。高額医療費の対象になりますので、患者負担はある程度に抑えられますが、国の財政には影響もありそうです。
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