【医療ニュースPickUp 2016年11月7日】たばこによる遺伝子変異数 肺が最多 国立がん研究センター等
2016年11月4日、国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野 柴田龍弘分野長をはじめとする日英米韓国際共同研究グループは、喫煙によるDNA(遺伝子)異常に関する研究結果を、当日付けの米科学雑誌「サイエンス」に発表した。
この研究は、喫煙が17種類の様々ながんに対して及ぼす影響を調査したもので、合計5,243例のがんゲノムデータを元に検討されたもの。
特に肺がんは喫煙との関連が深い事が改めてわかる
この研究結果によると、生涯喫煙量とがん患者のがん細胞に見られる、遺伝子の突然変異数には、統計的に有意な正の相関がみられるという。
つまり、喫煙そのものが、複数の分子機構を介した「DNA変異を誘発している」ことになる。
分かりやすい例でいえば、1日1箱のたばこを1年間吸うと、肺では150個、喉頭では97個、咽頭では39個、口腔では23個、膀胱では18個、肝臓では6個の突然変異が蓄積していると推計された。]
また変異パターンの解析により、喫煙による発がんリスクが上昇するがんには、少なくとも3つのタイプが存在することが明らかとなった。
タイプ1:たばこ由来発がん物質暴露が、直接的な突然変異を誘発する
例:肺がん、喉頭がん、肝臓がん
タイプ2:たばこ由来発がん物質暴露が、間接的な突然変異を誘発する
例:膀胱がん、腎臓がん
タイプ3:今回の解析では、明らかな変異パターンの増加が認められなかった
例:子宮頸がん、膵がん
図1 がん分類別 遺伝子変異数と、突然変異タイプとの関連
過去に行われた、日本人を対象とした研究結果によると、日本でたばこを吸う人ががんで死亡するリスクは、吸わない人と比較して、男性で2倍、女性で1.6倍高いといわれている。がん種別では、
- 男性:喉頭がん、尿路がん、肺がんで5倍前後
- 女性:肺がんで4倍、子宮頸がん、口唇・口腔・咽頭がんで2倍以上
など、高いリスクがあることが分かっている。喫煙は、がん予防に結び付く最大の要因といわれているが、特に肺がんは喫煙との関連が深い。肺がんによる死亡者数のうち、男性70%、女性20%は、喫煙が原因と考えられている。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース がんゲノムビッグデータから喫煙による遺伝子異常を同定
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20161104.html
同上 国際がん研究機関(IARC)による「喫煙とたばこ煙」に対する評価
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20161104_02.pdf
同上 日本における喫煙とがん死亡についての相対リスク*と人口寄与危険割合**?3コホート併合解析研究(1983 年~2003 年)
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20161104_01.pdf
Science
Mutational signatures associated with tobacco smoking in human cancer.
http://science.sciencemag.org/content/354/6312/618
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「たばこは体に悪い」「たばこを吸う人は肺がんになる」などと、ずっと以前から言われ続けてきたことではありますが、このように「喫煙により遺伝子が変異する」というデータが出てくると、妙に納得してしまいます。
喫煙者の肺がんは、確かに多いとは思うのですが、圧倒的ですよね。
遺伝子変異が2番目に多い「喉頭がん」の1.5倍ですから、喫煙者の肺がどうなっているのかが気になります。
私は学生の頃、「数十年に渡って喫煙していた人の肺」と、「非喫煙者の肺」を、比較した写真を見たことがあります。喫煙者の肺は、本当に真っ黒!たばこの煙って黒くないのに!と驚いたことを覚えています。
それから、以前、喫煙者の多い時期と、肺がん患者が増える時期には、およそ20年のタイムラグがある、というのを見たことがあります。遺伝子が変異してがんを発症するまで、それほど長い時間があるというのを、現しているのでしょうか。
もちろん、がんになりやすい体質というのもあるとは思います。実際に、かなりヘビースモーカーな高齢者でも、がんになっていない人がいる反面、たばこを吸わないのに肺がんになる人もいます。
最近では「喫煙者は採用しない」という企業も、増えているそうです。
その理由は様々だと思いますが、私が個人的に存じあげている方によると、「社長が嫌煙家だから」というのがありました。
ここ数年「がんになりやすい体質かどうか」を調べる、自宅でできる検査キットなども売り出されています。人類の敵ともいえるがんですが、少しでもがんになりにくい生活を心がけたいものですね。
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