【医療ニュースPickUp 2015年12月24日】小児医療機器開発が進展しない理由 PMDA調査結果より
2015年12月21日、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)は、「医療機器の小児への適応評価のあり方に関する議論のまとめ」を公表した。これは、同機構の科学委員会「医療機器の小児へ適応評価のあり方に関する専門部会(以下、専門部会)」が、小児に対する医療機器の適応評価などの在り方を議論してきた内容をまとめたもの。専門部会では、循環器と外科、新生児の3つの領域を取り上げ、それぞれの問題点を指摘している。
小児用外科手術機器の開発が進まない問題点…
循環器領域では補助人工心臓を例にあげ、欧米ではすでに臨床使用されているが、日本ではやっと治験の段階から、今年8月からやっと保険適応になったと述べている。
さらに、日本では承認された医療機器であっても、その使用にあたってはいくつかの問題があり、現実的には使用が困難となっている事例がある。日本では多くの難治性疾患の患者は小児専門病院で診療を受けていることから、特に小児専門病院に対する施設基準を作成する際に留意する必要があるとしている。
外科領域では、すでに成人用として使用されている医療機器についても、より小さいサイズの製品や、狭い術野における安全性を考慮したものが望まれてはいるが、現状ではその対応が不十分であるとしている。
日本において、小児用の外科手術機器等の開発が進まない問題として、使用する患者が少ないために企業としての採算がとりにくいこと、その結果として開発の着手が困難であること、さらに治験を行うための集患が難しいことなどを、問題点としてあげている。
新生児領域では、昨今の日本の事情として、低出生体重児(出生時2300g以下)、極低出生体重児(出生時1500g以下)、超低出生体重児(出生時1000g以下)の割合が増加していることを指摘。
これらの新生児が抱える疾患への治療には、実にさまざまな医療機器を必要とし、退院後も自宅での療養が必要になる場合がある。しかし、例えば複数の医療機器を組み合わせて使用する際の正常な動作確認がとれていないこと、極低出生体重児や超低出生体重児へ使用できるカテーテル類などの整備が不十分であること、在宅医療に必要な医療機器の標準化がなされていないことも、問題であるとしている。
そもそも日本の小児に対する医療機器の使用については、承認申請の段階で「成人データのみで承認申請されたもの」、「成人データと小児データを併せて承認申請されたもの」、「小児データのみで承認申請されたもの」に分類されている。
現在の日本で使用できる医療機器の多くは、「小児を対象とした使用の有無」について確認出来ていないものが多い。それにも関わらず、実際の医療現場では小児に使用されているという実態があり、小児への使用に対する限られたエビデンスに則っていることへの懸念がある。
しかしながら、小児への医療機器開発、特に新規性の高いものについては、多くの「望まれる」製品があることも事実であり、報告書では、外国臨床データの受け入れを満たすための要件などを示しながら、医療機器の適応を積極的に判断すること、小児適応への開発促進につなげることが望ましい、としている。
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
小児に適合する医療機器の開発…といえば、先日最終回を迎えた「下町ロケット」というテレビドラマの「ガウディ計画」が浮かびます。これは、下町の町工場が持つ技術力を最大限に生かし「小児用の人工心臓を開発する」というストーリーでした。
確かに、日本は少子化が進み、子どもの数が減っているため、小児患者も少なくなっているのでしょう。しかしその一方で、周産期医療の発展に伴い、一昔前なら「新生児期に死亡していた」であろう子どもたちが、退院して自宅療養をできるまで回復している、という事実もあります。
「産科医や小児科医が足りない」とか「子どもが入院できる施設がごく限られた数しかない」という現実もありますが、より安全に、より確実に使用できる「小児用の医療機器」が、全国で求められているのだと思います。
とはいえ、それを提供する側の医療機器メーカーからすれば、採算の合わない医療機器の開発に、何億円ものお金をかけるのは、やはり躊躇しますよね。
実際には、医療機器メーカーよりももっと後ろには、それらを作る「ものづくり企業」もありますので、そこまでの「開発資金」をどうやって捻出するか、さらに「作り続けることへの資金」もどうにかしないと、「小児の医療機器開発」は、なかなか進まないのかなとも思います。
今回の報告書はあくまで「議論のまとめ」ではありますが、これらを受けて国がどう動くのか、動向をチェックしていきたいと思います。
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