【医療ニュースPickUp 2016年1月28日】双生児は2人とも“がん”になりやすい?北欧の調査研究結果より
アメリカの医学雑誌「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」の 2016年1月5日号に、アメリカ・ハーバード公衆衛生大学院、Lorelei A. Mucci氏らの研究グループの研究成果が報告された。研究グループは、北欧の双生児を長期にわたって追跡した結果、すべてのがんおよび特異的がん(メラノーマ、前立腺がん、卵巣がん、腎臓がん、乳房がんなど)には、過剰な家族性リスクが有意に認められたという。
一卵性双生児で38%、二卵性双生児で26%で同種がん発症
今回の研究対象となったのは、北欧各国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど)の住民集団であり、総勢20万組を超える双生児。一卵性双生児8万309例、同性の二卵性双生児12万3,382例を対象に、1943~2010年の間(中央値32年間)に、対性調査を行った。このうち、全死因死亡は5万990例、追跡不能は3,804例であった。
これらの住民集団に対し、双生児が共有した環境リスク因子や遺伝性リスク因子と、がん発症との関連性についての評価検討を行った。また、時間イベント解析により、家族性リスク(双子におけるがん発症リスク)、遺伝性リスク(個人レベルの遺伝子の違いによるがん発症リスク)も検討し、死亡リスクの比較検証を行った。
結果として、全体で2万3,980例、2万7,156件が“がん”と診断されたという。
双子がともにがんと診断されたのは、一卵性双生児1,383組(2,766例)、二卵性双生児1,933組(2,866例)であり、同種がんの発症率は、一卵性双生児で38%、二卵性双生児で26%であった。
また、コホート全体では累積発症リスクが32%だったが、これと比較すると、「双生児の一方ががんを発症した場合、もう一方のがん過剰絶対リスク」は、二卵性双生児ではおよそ5%高く、一卵性双生児ではおよそ14%高かった。このことから、多くのがん症例で、二卵性双生児よりも一卵性双生児のほうが、家族性リスクおよび累積発症リスクが有意に高いことが確認された。
全がん発症の遺伝性リスクは33%であり、個別のがんでみると、メラノーマ皮膚がん58%、前立腺がん57%、非メラノーマ皮膚がん43%、卵巣がん39%、腎臓がん38%、乳がん31%、子宮がん27%であった。
研究グループは「 がんの遺伝性リスクについてこの情報は、患者教育およびがんリスクカウンセリングに役立つであろう」と述べている。
参考資料
The Journal of the American Medical Association
Familial Risk and Heritability of Cancer Among Twins in Nordic Countries
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2480486&linkId=20118523
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
双生児は似たような遺伝子構造なわけですし、中でも一卵性双生児は全く同じ遺伝子を持っていると考えられているわけですから、片方ががんになればもう片方も同じリスクを背負っている、というのは、何となく「そうだろうな」とは思っていました。こういう結果が出ると「なるほど!」と思いますよね。
今回の研究結果で、そうなのか!と思ったのは、「メラノーマ皮膚がん」の遺伝リスクが一番高かったこと。「家族性」とか「遺伝子の影響が高い」とかいわれる「乳がん」よりも、皮膚がんの方が多いのか、というあたりでしょうか。皮膚がんの発症リスクの1つに「過剰な日焼け」もありますから、育ってきた環境とかも関係ありそうですけどね。
今回の調査対象は、一卵性双生児と、同性の二卵性双生児。じゃあ男女の二卵性双生児はどうなのか?という疑問も多少ありますが、今後、どこかで研究されるのでしょうか。
ところで、日本では全体の出生数はどんどん低下する傾向が続いていますが、実は「双子の出生数」は、ここ何十年もそれほど大きくは変わらず、年間およそ2万人だそうです。ここ数年は全体の出生数が大きく減っていますので、双子・三つ子などの多産の出生数もそれなりに減ってはいるようですけどね。
いずれにしても、双子ってかなり神秘的だと思います。特に一卵性は「自分と同じ遺伝子の人間がこの世に2人いる」わけですから、さまざまな疫学的な謎を、秘めているのかもしれません。
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