【医療ニュースPickUp 2017年8月30日】臍帯血を使った再生治療を無届で行った容疑で医師等を逮捕
2017年8月27日、他人の臍帯血(さいたいけつ)を使った再生医療を無届で行ったとして、愛媛、高知、茨城、京都の4府県警の合同捜査本部は、治療を行った医師や臍帯血をクリニックに販売した業者など計6人を、「再生医療安全確保法違反容疑」で逮捕した。同法違反容疑としては初の逮捕という。
再生医療安全確保法は、国民が安全性を確保しながら迅速に再生医療を受けられることを目指したもので、2014年5月に施行された。自由診療や臨床研究において、細胞の培養加工における外部委託を可能にすると同時に、医療の提供機関や細胞の培養加工施設について一定の基準と、届出や許可などの手続きを定めたものだ。
しかし、法律に基づいた手続きを経ずに、臍帯血を用いた再生医療等を提供している施設があるとの情報が複数寄せられた。これを受けて厚生労働省は2016年6月、治療計画の提出や臍帯血の加工施設の届出が必要である旨の周知と、違反が疑われる医療機関や事業者等の情報提供を通達した。
さらに同月末には、他人の臍帯血を無届で患者に投与し、法律違反が確認された東京・大阪・福岡の施設に、再生医療提供の一時停止緊急命令を出していた。
今回逮捕された販売会社・卸売会社の代表者らは、倒産した臍帯血バンクが保管していた臍帯血を、ブローカーなどを通じて転売することで、全国のクリニックにおける無届治療に関わっているとされる。
臍帯血には、血液細胞のもとになる造血幹細胞が含まれ、白血病や悪性リンパ腫、再生不良性貧血などの治療に用いられる。採取にはドナーへの負担がないことに加え、さまざまな疾患の治療に役立つとして注目されている。
今回逮捕された医師らは、老化対策やがん治療を目的に、臍帯血を無届で患者に投与していたというが、これらの治療の有効性は科学的に効果が証明されていない。
参考資料
厚労省事務連絡「臍帯血を用いた再生医療等について」(2016/6/3)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000150816.pdf
再生医療等の安全性の確保に関する法律に基づく緊急停止命令について(2017/6/28)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000169320.html
再生医療等の安全性の確保に関する法律の概略
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000079192.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「再生医療安全確保法違反容疑」での初の逮捕、というニュース。正直なところ「ついに来たか」という感想でした。個人的な印象としては、iPS細胞による「ノーベル賞」以降、「再生医療」という言葉が一般にも広がったように思います。「何だかよく分からないけど、効果がりあそうな気がする」というのが、患者さん側の印象なのではないでしょうか。
実際、臍帯血バンクや「臍帯血を保存しておき……」というのは、少なくとも1990年代後半には有ったと思います。
私自身、出産前に「臍帯バンク」についての案内を受けましたし、勤務していた手術室では、臍帯血の採取が普通に行われていました。しかしこれに「再生医療」という言葉がつくとどうでしょう。「アンチエイジング」として大々的な広告が打たれるようになったと思います。
今現在、まだ「将来的に期待される治療法」としての余地はまだまだあります。例えば、白血病・悪性リンパ腫などの血液がん治療。これはすでに実績をあげつつある治療法です。それから、整形外科領域での「骨欠損」や「変形性関節症」、あるいは神経系疾患の「パーキンソン」「アルツハイマー」「脳梗塞」「脊髄損傷」などです。
こういった「臍帯血を使うことで、日常生活の不便を改善する」目的や、患者さん自身のQOL向上という意味では、臍帯血に大きく期待する部分はあります。
しかし、自分自身の臍帯血を使用するならともかく、他人の臍帯血を使用することが、果たして良い事なのかどうか。倫理的な問題もはらんでいるのではないか、と考えてしまいます。
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