【医療ニュースPickUp 2016年1月29日】職業性膀胱がんの問題で、厚生労働省が緊急調査 4工場で6人が発症
染料や顔料の原料を製造する、福井市内の三星化学工業(本社:東京)工場に勤務していた男性従業員ら5人が、相次いで膀胱がんを発症した問題で、厚生労働省は緊急の全国調査を行い、2016年1月21日、その調査結果を公表した。
この5人はいずれも、発がん性が指摘されている「オルトトルイジン」と呼ばれる化学物質を取り扱っていた経験があり、勤務状況と膀胱がん発症の関連性について議論がなされている。男性従業員らは、厚生労働省に早期の労災認定を申請するよう働きかけており、この問題を受けた厚生労働省は今回、緊急調査を行うに至った。
製剤を使用する事業所において2名が膀胱がんを発症
厚生労働省が公表した調査結果によると、労働基準監督署職員による聞き取り調査を行った。調査対象となったのは、「オルトトルイジン」を扱っている、あるいは過去に扱った可能性のある事業所など。
現在の「オルトトルイジン」の使用状況や、従業員や退職者の中で膀胱がんを発症しているかどうかなどについて調査した。
その結果、
- 現在も「オルトトルイジン」を扱っているのは17ヶ所
- 過去に「オルトトルイジン」を扱っていたのは10ヶ所
- 「オルトトルイジン」を取り扱ったことがないのは11ヶ所
という結果になった。
このうち、「オルトトルイジン」を含有する製剤を使用した塗装等を行う事業場2か所で、それぞれ1名の計2名が、すでに膀胱がんを発症していることが分かった。
さらに、その他の事業所では、1つの事業所で勤務者1名および退職者2名、別の1つの事業所で勤務者1名、計4名が膀胱がんを発症していた。
ただし、この6人すべてが、「オルトトルイジン」への暴露した可能性があるわけではない。中には、暴露リスクのある「製造工程」には、従事した経歴が確認されていない者も含まれている。
このことから厚生労働省は、当該労働者等の暴露作業の従事歴の有無(「オルトトルイジン」の取扱いの有無等も含む)や暴露の状況、ならびに発症時期等を確認するとしている。さらに、膀胱がん発症との関連性についても、引き続き行うこととしている。
参考資料
芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000110015.html
同上 別添資料 芳香族アミンの取扱事業場に関する調査結果等について
~第一報(平成 28 年1月 21 日時点)~
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11305000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Kagakubushitsutaisakuka/0000110047.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
3~4年前の「印刷事業場で発症した胆管がん」や、今回の問題など、職業性のがん(関連性が明確にはなっていない部分もありますが、とりあえずは関連があるとして)は、どうにかならないものかと、こういった報道を見るたびに思います。
医師や看護師も、職業性のがんの可能性はゼロではありませんが、医療者であれば、何が危険なのか、どう危険なのかが、どうすれば自分の身を守れるのか、ある程度は分かりますよね。でも、工場で働く職員の人は、何がどう危険なのか、知らされていないケースもあると思うのです。
仕事上、これが必要だからマニュアル通りに作業しなさい」といわれたら、まぁそれに従いますよね。でもそのマニュアルが本当に安全なのか、間違ってはいないのか、マニュアルのどの部分は絶対に守らなければいけないのか、どこをどう間違ったら自分の身に危険が及ぶか、そういったことをきちんと分かって作業しているのでしょうか。
どんな職業でも、社会的には必要であり、その一方で人体に悪影響がある物質を扱わなくてはならないこともあります。もちろん、世の中には未知の危険物質もありますし、100%すべてを遮断することはできないかもしれません。
でも、少しでもリスクのある物質を扱う可能性があるなら、どうすれば自分や周りの人を守れるのか、きちんと考えていくべき問題なのだと思います。
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