【医療ニュースPickUp 2018年4月9日】喫煙が聴力低下のリスクを高める!?国立国際医療研究センター調査
喫煙は、がんを初めとするさまざまな疾患の要因と成り得ることは明らかとなっているか、新たに「聴力低下のリスクが増加する」ことが、国立国際医療研究センターの大規模調査によって明らかになった。
当研究の成果は、2018年3月14日付けで、米国科学誌「Nicotine & Tobacco Research」に掲載された。
今回、調査の対象となったのは、調査開始時点で聴力の低下していない20~64歳の日本人労働者5万195人。
対象者に2008~2010年の健診と喫煙状況のデータを提供してもらい、2016年春まで最大8年間の追跡調査を行った。
これらの対象者を以下のように区分して、高音域と低音域の聴力検査を毎年した。
- 喫煙3区分:非喫煙、過去喫煙、現在喫煙
- 喫煙量4区分:非喫煙、1日1-10本、1日 11-20本、1日21本以上
- 喫煙後年数4区分:非喫煙、禁煙後5年未満、5-9年、10年以上
調査期間中に、約3500人の高音域の聴力が低下し、約1600人に低音域の聴力の低下が見られた。
さらに性、年齢、既往歴、職場での騒音、運動などの要因を調整して、喫煙と難聴の関連を調べ分析した。
その結果、現在喫煙している人は、非喫煙者に比べて高音域の聴力が低下するリスクが60%高く、喫煙本数が増えるにつれてリスクが上昇することがわかった。
特に1日21本以上吸う人は、吸わない人に比べて高音域で1.7倍、低音域では1.4倍のリスクとなるという。
喫煙による影響とは、ニコチンの毒性が聴覚器へ直接影響するほか、カルボキシヘモグロビン(一酸化炭素とヘモグロビンが結合した物質で、体内組織への酸素供給を低下させる)の増加、血液の粘度上昇が起こり、これが要因となり、内耳にある蝸牛の血流が低下することが、明らかとなっている。
一方、禁煙すると難聴のリスクは禁煙期間が5年未満でも低下し、禁煙から5年経過すると、非喫煙者とほぼ同等になることもわかった。
禁煙と難聴の関連性についてはまだ十分な研究がなされておらず、今回の調査はこれまでの研究のなかで最大規模となる。この結果を踏まえて、難聴の発症を予防・遅延させるためには喫煙の管理が必要であることを、この調査結果では示唆している。
参考資料
Smoking, Smoking Cessation, and the Risk of Hearing Loss: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29547985
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 「喫煙および禁煙と聴力低下のリスク」職域他施設共同研究(J-ECOHスタディ)
http://ccs.ncgm.go.jp/news/2017/20180322.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「喫煙」が、さまざまな疾患の要因となることは、すでに誰でもが知っていることだと思います。しかし、「聴力低下」の原因になるというのは、ここ数年で分かってきたことのようです。
国立国際医療研究センターのサイトには
「実験研究によると、喫煙はニコチンの毒性による聴覚器への直接的な影響があるほか、 喫煙に伴うカルボキシヘモグロビン増加や血液粘度上昇による内耳にある蝸牛(音を感じ取る有毛細胞がある)の虚血を引き起こすことが明らかにされている。」とあります。
では、「蝸牛への虚血を引き起す」ことは、この大規模調査よりも前に、すでに明らかとなっていたのでしょうか。これが、いつ頃から分かっていたのか、というのが個人的には疑問でしたので、少し調べてみました。
すると、2011年頃の海外の研究で、受動喫煙と難聴との関連性を調査したものがありました。つまり、少なくともそれより数年前には「喫煙と難聴」との関連性は、分かっていたのかもしれません。
また、数年前からは、難聴と認知症の関係も、明らかになりつつあります。長期の喫煙から難聴になり、いずれ認知症へ。このような道筋が、見えてきたのではないでしょうか。
日本では、数年前から「電子タバコ」が流通しています。一時期、「電子タバコは有害物質が少ない」「受動喫煙の危険がない」「従来の燃焼式タバコより健康リスクが少ない」という風潮がありました。しかしこれは誤認であり、日本呼吸器学会からも「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解」という文書が出されています。
その中では「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は、健康に悪影響がもたらされる可能性」があり、これは受動喫煙に対しても同様のリスクがあると考えられることから、公共の場所や、公共交通機関での使用は認めない、とされています。
いずれにしても、たばこは「百害あって一利なし」ですね。
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