【医療ニュースPickUp 2016年3月16日】iPS細胞から「膵島細胞」の作製に成功 流路型培養システム開発
2016年3月9日、アークレイ株式会社(本社:京都府京都市)は、自社が開発した「流路型培養システム」により、ヒトiPS細胞から膵島細胞の高効率作製に成功したと公表した。作製された膵島細胞は、グルコース濃度に応じたインスリン分泌能を持つことが確認されているという。本システムは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」において、京都大学との共同研究により、開発された。
世界的にも大きな期待が寄せられる
本システムには、従来の培養システムである、培養皿を用いた手法や、大型の培養装置などと比較すると、次のような特徴を持つという。
- 設置場所を問わないバッテリー駆動を採用
- 培養液・廃液交換のポンプ稼動は専用プログラムによりスケジュール制御が可能なため、日々の培地交換作業が不要
- 流路デバイス内での長期間培養維持が可能
- 細胞応答の解析に応用が可能
厚生労働省が行っている「患者調査」によると、糖尿病の患者数は平成26年10月時点で316.6万人と推計されている。患者数は加齢とともに増加しているだけではなく、近年では1型糖尿病患者数も世界的に増加傾向にある。世界全体では4億人以上の糖尿病患者がいるといわれており、「2015年の20~79歳の成人のうち、11人に1人が糖尿病有病者」と推計されている。
このような背景もあり、ヒトiPS細胞やヒトES細胞から、人工的に膵島を作製・利用する再生医療には、世界的にも大きな期待が寄せられている。
アークレイ株式会社によると、本システムの開発により、培養環境を物理的に制御することが可能となり、同一構造の細胞を多数作成することで、培養規模の拡大が容易になるという。
現在は、培地交換や温度管理、CO2濃度管理を全自動化する培養システムの開発に取り組んでいるという。これらのシステムが開発されると、大型化・自動化だけではなく、膵島細胞以外の細胞種への応用についても、検討していくという。
参考資料
アークレイ株式会社 ヒトiPS細胞から膵島細胞の作製に成功 流路型培養システムを開発
http://www.arkray.co.jp/press/press/2016_03_09.html
厚生労働省 平成26年度 患者調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h26syobyo.pdf
国際糖尿病連合(IDF) Diabetes Atlas 2015 「糖尿病アトラス 第7版 2015」
http://www.diabetesatlas.org/
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
ついに!「iPS細胞から膵臓作製」が、現実的になってきたようです。私自身、身近なところに糖尿病患者がいたこともあり、これはかなりの期待をしています。
厚労省の他の統計(2014年「国民健康・栄養調査」)によると、糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる人)の割合は、男性で15.5%、女性で9.8%とのこと。50歳を超えると増えはじめ、70歳以上では男性の4人に1人(22.3%)、女性の6人に1人(17.0%)が糖尿病とみられる、だそうです。
近年では、糖尿病と認知症との関連性が明らかになっていたりもしますよね。ある意味、日本の姿を現すといわれている「久山町研究」でも、糖尿病などの生活習慣病が一定以上に増えた場合と、そうでない場合との「認知症患者数の推計」を公表していますが、糖尿病などが一定以上の割合で増えていくと、認知症患者も比例的に増加するそうです。
高齢化が進むと、ある程度の認知症患者数の増加は予測できますが、少しでも少なくするためには、糖尿病を含む生活習慣病を減らすことが必要、ということです。
糖尿病の発症数を減らすことも大事ですが、すでに発症してしまった場合(1型糖尿病も含め)、少しでも長くインスリン分泌能を維持していくためには、今後は再生医療もその範疇に入ってくるのではないでしょうか。
これに加え、私は個人的にではありますが、前回のニュース雑感でも書きましたが、1型糖尿病の子どもたちが、インスリン自己注射から解放される生活を目指せる医療技術が、1日も早く現実的になってほしいと思います。特にこのアークレという企業は、ヒトiPS細胞の分野で最先端ともいえる京都にあるわけですから、「日本の技術を世界へ」の足掛かりになると良いなと思います。
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