【医療ニュースPickUp 2015年11月18日】より最適な投薬治療が可能に?がん原因遺伝子を解析 国がん
2015年11月13日、国立がん研究センター(東京都中央区 以下、国がん)は、2016年1月より、がん患者から採取したがん細胞の遺伝子解析を行い、その後のがん治療に活用する臨床研究を始めると公表した。
国がんの中央病院(東京都中央区)に、国際基準に準拠した検査室を開設したことにより、がん患者の遺伝子を網羅的に解析した情報を、治療選択(抗がん剤の選択)へ役立てることが期待されている。これは、2013年にスタートした臨床研究「TOP-GEARプロジェクト」第一弾に続く、第二弾「TOPICS-2試験」と呼ばれる。
より高い治療効果が期待できる可能性
現在の日常診療においても、遺伝子検査が行われることがある。これは、特定の薬剤の効果や副作用に関連する特定の遺伝子を調べることが目的であり、ひとつの遺伝子について調べるためには、2週間程度の時間がかかっていた。これに対し、次世代シークエンサー(ネクストジェネレーション・シークエンサー;NGSとも呼ぶ)を用いた「羅的遺伝子検査」は、研究や医薬品の開発段階で行われてきた。
しかし網羅的な遺伝子検査は、多数の遺伝子を同時に調べるものではあるのだが、日常診療に導入するためには、検査の信頼性の確保、遺伝子情報の取り扱いに関する倫理的問題など、多くの課題を抱えていた。世界的に見ても日常診療への導入が遅れているのが現状であった。
がんとはそもそも、何らかの原因による「遺伝子の異常」に起因していると考えられている。現在までに、がん発症の原因になるとみられる遺伝子は、500種類ほど見つかっている。この遺伝子変異の状況を網羅的に検査すると、遺伝子変異による薬物の効果の違いや副作用のあらわれ方の違いがあることが分かってきた。
つまり、このメカニズムが実際の臨床でも効果があることが実証できれば、より高い治療効果が期待できることになる。同時に、不必要な副作用を避けること、あるいは医療費の削減にもつながる可能性がある。
2013年からスタートした臨床研究「TOP-GEARプロジェクト」の第一弾では131人の患者が対象となったが、今回は約200人の患者の遺伝子を研究し、数年後の実用化を目指す。尚、今回は「臨床試験」であるため、患者側の費用負担の増加はない。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース 国際基準に準拠した遺伝子検査室を院内開設
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20151113_02.html
同上 がん診療における遺伝子解析とは
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20151113_02_01.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
がん治療も、とうとう遺伝子レベルまで到達しましたね。「がんになる原因は、遺伝子変異である」と言われて久しいように思いますが、いよいよ本格的に、遺伝子変異と使用薬物の関係が、明らかになるようです。
まだ臨床試験の段階ではありますが、数年後には「同じ乳がん患者さんでも、Aさんは抗がん剤A、Bさんは抗がん剤BとCを使う」という世界になるのではないでしょうか。
国がんではこういった診療を「ゲノム医療」などと呼んでいるようですが、担当医、薬剤師、病理医といったこれまでの登場人物に、生命情報学専門家とか、クリニカルシークエンス部門医、といった新たな登場人物が出てくるようです。
遺伝子レベルでの治療って、少なくても20年前には無かったかと思います。これまでにも、例えば乳がんの術後抗がん剤の要否の判断は、遺伝子レベルでの検査も可能だったようですが、「世界中の検体が米国の一か所の検査所に集められている」という現状があり、検査結果が出るまでには非常に時間がかかっていたわけです。
そう考えると、一か所だけとはいえ、日本国内で検査ができるようになるのは、かなり画期的なのではないでしょうか。
がんになる予測も遺伝子、治療方針も遺伝子が握っているって、すごいことだと思います。
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