【医療ニュースPickUp】2015年5月1日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
理研 阻血状態ドナー臓器の利用拡大へ新たな一歩
2015年4月22日、理化学研究所(以下、理研)は「摘出臓器の生体外長期保存・機能蘇生技術を開発した」と公表した。
これは、理研の多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー、株式会社オーガンテクノロジーズの手塚克成研究開発部長、慶應義塾大学医学部の小林英司特任教授らの共同研究グループによるもので、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』にて公開されている。
現在の日本では、国内における臓器移植の実施数は待機患者全体のわずか15%程度。2014年末現在のデータでは、臓器移植希望者としておよそ1万4千人が登録されているにもかかわらず、希望が叶わないケースも少なくない。
現在、世界的にみても慢性的なドナー不足が深刻化している。海外ではドナー数の増加を目指して、これまで移植に用いることは不可能とされてきた心停止ドナーの利用を推進しているが、日本の現状は少し違う。
日本では、心停止ドナーの臓器移植に関して厳しい制限が設けられており、肝臓や腎臓、角膜など一部の臓器や組織に対してのみ移植としての臓器利用が認められている。
このような背景から、共同研究グループは現在の臓器移植治療の課題ともいえる「ドナー臓器の安定した長期保存」、「移植不適応となった心停止ドナーの臓器を蘇生」する持奥的で、臓器灌流培養システムの開発に着手した。
さらに、再生医療の到達点ともいえる「再生臓器の育成につながる技術開発」も視野に入れて開発を進めたという。
研究グループはまず、「温度制御と酸素運搬体の添加による灌流培養条件の決定」に取り組んだ。
酸素運搬体としてヒトの赤血球を添加し、保存温度を22℃以下に設定することで、臓器障害を顕著に抑制できることを突き止めた。
この条件下で48時間灌流培養した肝臓は、生体から摘出したばかりの肝臓と同じ組織構造が維持されており、尿素合成能を有すること、胆汁やアルブミン合成能があることなどから、肝機能が維持されていることが分かった。
さらに「常温環境下における細胞活動の制御」では、やはり22℃で培養した細胞は速やかに増殖を回復したことが分かった。
実際の移植成功率については、一般的に用いられる臓器保存液を用いた低温保存後のラット肝臓を移植したレシピエントと比較した。その結果、移植後の生存率が100%だったのは、本研究による灌流培養システム(赤血球添加条件)を利用したケースのみであった。
さらにこの灌流培養システムで、移植不可能な程度まで障害を受けた心停止ドナーの肝臓蘇生について検証したところ、重度の温阻血状態の肝臓でも蘇生できることが分かった。
今後はヒトへの応用をめざした研究を行い、現在では未だ不可能である“生体外における再生臓器の育成のための培養装置”としての発展が期待されている。
参考資料
理化学研究所 報道発表資料「摘出臓器の生体外長期保存・機能蘇生技術を開発 ― 従来移植不適用な阻血状態ドナー臓器の利用拡大へ ―」
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150422_1/
SCIENTIFIC REPORTS
Hypothermic temperature effects on organ survival and restoration
http://www.nature.com/srep/2015/150422/srep09563/full/srep09563.html
日本臓器移植ネットワーク 移植希望登録者統計(各年末)
http://www.jotnw.or.jp/file_lib/pc/datafile_hope_pref_pdf/isyokukibousya-toukei-2015.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
臓器移植を希望する方が、2014年末時点で1万4千人近くもいる、ということに驚きました。しかも移植を受けられるのはそのうちわずか15%。希望が叶わずに命を落とすケースも多いのでしょう。
もっとも移植希望が多いのは腎臓のようですが、中には20年以上も待機となる人もいるようです。他の臓器、例えば心臓・肝臓・肺などと比べて、腎移植希望者はやや減少傾向にあるようですが、それでも全国で1万3千人近くいる、ということになっています。
今回の理研の研究では、肝臓を対象に研究が進められたようですが、肝臓移植希望者の場合、予測余命が3から6カ月という人が半数以上を占めるようですので、この研究成果がヒトで実用化され、一日も早く臓器移植を受けられる人が増えることを望んでいます。
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