【医療ニュースPickUp 2017年6月5日】たばこが原因の死者は年間700万人超 – WHOが報告
2017年5月30日、WHO(国際保健機関)は、5月31日のWHO世界禁煙デーに先立ち、WHOは、たばこによる影響についてまとめた報告書を公表した。これによると、喫煙による死者は、世界で年間700万人以上にのぼり、医療費や生産性の低下などによる経済損失は1兆4000億ドルにのぼると発表した。WHOでは各国政府に対し、一層のたばこ規制強化を呼び掛けている。
WHOはこの報告書の中で、喫煙は健康被害をもたらし、貧困を生む原因になっていると指摘した。たばこを日常的に吸う人は世界全体で約10億人以上にのぼり、たばこが原因で死亡する人は年間700万人超、うち89万人が受動喫煙で死に至っているとしている。さらに、たばこはすべての非感染性疾患(NCD)による死の16%を占めるという。
10億人以上の喫煙者のうち、約8億6000万人の成人喫煙者が、低・中所得国に住んでいる。最貧困地帯では、たばこへの支出が家計支出全体の10%以上を占め、食料や教育などに十分なお金を使えないという。喫煙が盛んな地域では、住民の10%が栄養不足で、喫煙による死者のうち約80%はこうした低・中所得国が占めていると指摘した。
また、たばこ農家での労働が子供の就学を妨げ(たばこ農家で働く子供の10~14%が教育を受けていない)、全労働者の60~70%を占める女性が、危険な化学物質と密接な接触をしている点にも言及している。
たばこが環境に与える影響についても初めて公表した。主な指摘は次の通りだ。
- たばこの吸い殻には7000を超える有害化学物質が含まれている
- たばこの煙の排出は、数千トンの発がん物質、毒物、温室効果ガスを環境に拡散させる
- 1日に販売される150億本のたばこのうち、最大100億本がそのまま廃棄されている
- 沿岸および都市部の清掃で集めたゴミの30~40%がたばこの吸い殻で占められている
WTOは具体的な規制措置として、たばこ税の増税のほか、たばこの健康への影響を警告するパッケージ印刷や広告の禁止、屋内の公共スペースや職場での禁煙指定を求めている。
WHOのFCTC(たばこ規制枠組条約)は全会一致で採択され、2005年に発効した。締結国は180か国で日本も加わっている。
参考資料
WHO 「World No Tobacco Day 2017: Beating tobacco for health, prosperity, the environment and national development」
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2017/no-tobacco-day/en/
WHO 「Tobacco is a deadly threat to global development」 Dr Margaret Chan, Director-General of WHO
http://www.who.int/mediacentre/commentaries/2017/tobacco-threat-development/en/
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
毎年この時期になると、WHOからの声明文や報告書の公表などが行われますが、実は日本の厚生労働省も、「世界禁煙デー」に合わせて、5月31日から6月6日までの1週間を、日本国内における「禁煙週間」と定めています。実は、全国の自治体でもさまざまな取り組みやイベントが開かれています。今年のテーマは「2020年、受動喫煙のない社会を目指して~たばこの煙から子ども達をまもろう~」で、受動喫煙による健康への悪影響から人々を守ることを目的としているそうです。
例えば、東京都の取り組みとしては、トータルで72の項目が挙がっていますが、このうち東京23区内で行われるものは5つのみ、新宿区にある東京都庁が中心となっています。それ以外の項目は、東京都の西側の立川市や青梅市、八王子市など都下でのイベントが多いようです。東京都以外では、北海道や大阪では100以上のイベントなどが予定されている都道府県もあります。
しかし、WHOの報告書にある「最も効果的なタバコ規制措置の1つは、タバコ税と価格の上昇」というのは、なるほどと思う反面、場合によってはさらに貧困を悪化させる可能性も秘めているのでは?と個人的には思います。確かに日本でも「増税を機に禁煙する」人は一定数いるだろうと思いますが、たばこは中毒性があるものですから、それでも「やめられなかった」人もいますよね。現在の調査結果で、「家計支出全体の10%以上」が20%以上になるだけ、という家庭もあるだろうと思えるからです。
いずれにしても、世界中で大きな問題をはらんでいる「喫煙」という問題。来年の報告書ではどのような事柄が述べられるのか、注目していきたいと思います。
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