【医療ニュースPickUp 2016年5月27日】がん医療水準の「均てん化」の評価体制構築に向けた調査結果を公表 国がん
2016年5月26日、国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区、以下国がん)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は、がん診療連携拠点病院などにおける治療実態の調査結果を公表した。
これは、全国232施設で2012年にがんと診断された患者31万2381名に対し、それぞれのがん種とそれに対する標準治療・検査9項目の実施率と、標準治療を行わなかった理由などについての調査を行ったもの。
「均てん化」の評価体制構築に向けて
この調査の目的は、がん医療水準の「均てん化」の評価体制構築に向け、EBMに基づいたとされる標準治療が、どの程度実施されているのかを調べることにあった。
ただし、EBMに基づいた標準治療とはいえ、患者の状態によっては行われないケースもあることから、「未実施理由の妥当性」についても調査を行った。2011年に続き、2度目の調査となる。
結果として、2011年、2012年ともに、標準治療の実施率には大きな変化がみられなかった。しかし設定された調査項目によっては、施設間での差異がみられた。
標準治療を行わなかったケースでは、がん腫やステージ、年齢、全身状態などを踏まえた検討がなされており、中には患者側で標準治療を希望しないケースや、高齢を理由にしたケースもあったという。
未実施理由を加味した例をいくつか挙げてみると
- 肺がん:ステージ1-3の非小細胞肺がんへの手術または定位放射線治療は99.2%
- 胃がん:ステージ2、3に対する術後S-1療法(抗がん剤)は98.8%
- 乳がん:乳房切除後の腋窩リンパ節転移に対する術後放射線照射は61.7%
- 臓器横断:催吐高リスク化学療法前の予防制吐剤投与は71.7%
など、標準治療の実施率は、がん腫や治療法によりバラつきがみられた。
全体的には、標準治療の実施率をみると68%であったが、施設間格差も確認された。さらに、標準治療が未実施だったケースのおよそ半数には、一定の理由が存在することが分かったという。
国がんでは、「未実施の理由を詳細に調査・検討し、適切な治療が行われていたかを評価することが重要である。標準治療未実施の理由については、患者の状態や臨床状況の個別性も考慮しなければならず、今回のような大規模調査ですべてを把握するのは困難であり、今後もこの調査を発展的に継続しながら、『未実施理由の妥当性を個別に検討できる体制』を構築し、継続的な均てん化の評価と、診療の質(QI)の向上を目指す」としている。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース
がん医療水準の「均てん化」を評価する体制構築に向けがん診療連携拠点病院などでの治療実態を調査
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160526.html
同上
都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がん登録部会QI研究
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20160526_shiryo02.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「がんの標準治療」という言葉がややこしいと感じましたので、国がんが運営する「がん情報センター」で調べてみると、以下のように書かれています。
標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます。
一方、推奨される治療という意味ではなく、一般的に広く行われている治療という意味で「標準治療」という言葉が使われることもあるので、どちらの意味で使われているか注意する必要があります。
この記述は一般向けに書かれたもののようですが、がんの種類ごとに、各学会などから「●●がんの治療ガイドライン」などが出されています。とりあえずは、こういったものに記載されている治療法、ということなのかと解釈しています。
今回、公表されている資料をみると、例えば大腸がんでは、「高齢」「全身状態の低下」なども未実施理由として挙がっていますが、「患者が希望しなかった」という理由が一番多かったようです(26%)。中には「転院」という理由も6%ほどあり、患者自身が治療法や治療を受ける施設を選んでいる、という姿も伺えます。
治療法によっては、大きな苦痛を伴うだけではなく、高額になることもありますし(特に化学療法は、使用する薬剤によっては非常に高額ですし…)、高額医療費制度を使えたとしても、患者の方から「治療を断念する」ケースも、少なからずあるのではないでしょうか。
国がんでは今後も、同様の調査を継続していくようですが、「がん医療水準の均てん化の評価体制」がいつ頃できるものなのか、引き続き注目していきたいと思います。
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