【医療ニュースPickUp】2015年3月4日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
痒み改善薬の適応拡大を申請
2015年3月3日、東レ株式会社(本社:東京都中央区)、鳥居薬品株式会社(本社:東京都中央区)などが連名で、血液透析患者におけるそう痒症改善剤「レミッチ®カプセル 2.5μg」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩、以下「レミッチ」)について、国内における効能追加申請を行ったと公表した。
今回は、「慢性肝炎疾患患者」が効能追加の対象となった。
レミッチは東レが創製した薬剤である。世界初の選択的オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬で、2009年1月に、前述の「血液透析患者おけるそう痒症改善剤」として、国内での販売許可を受けている。
同じそう痒症に効果のある抗ヒスタミン薬や、抗アレルギー薬、外用ステロイド製剤などとは、痒みを抑制するメカニズムが違う。そのため、既存薬では効果が低い痒みに対して、有効性を示すと期待されている薬剤だ。
そもそも血液透析患者の全身的なそう痒症は、複数の因子が関与することで発現するが、決定的な因子は特定されていないという。
一方で、血液透析患者は、血漿中のβ-エンドルフィン(オピオイドミュー(μ)受容体(以下、μ受容体)を作動させる内因性オピオイド)濃度が高く、痒みの症状が強い患者ほど、β-エンドルフィン濃度が高いことが分かっており、相関性が示唆されている。
また、オピオイド受容体には、μ、κ、Δ(デルタ)、ノシセプチンなど、複数のサブタイプが存在するが、痒みなどの作用発現はサブタイプごとに異なっている。中でも、μ受容体は「痒みの誘発」、κ受容体は「痒みの抑制」という作用があり、これらが中枢神経に作用することで、「痒み」の発現をコントロールすると考えられている。
つまり、κ受容体は、μ受容体と相反する作用を示し、μ受容体を介して痒みなどの症状を抑制する働きを持つといわれているのだ。
レミッチは、これらの機序に対し、κ受容体に選択的に働きかけることで、神経組織においてκ受容体を作動させることで、結果的に「痒み」を抑制するとされている。
レミッチには、
〇in vitroで、κ受容体に選択的な作動を示した
〇マウスで、ヒスタミン、サブスタンスPおよびモルヒネによる痒みに対して止痒作用が確認された
〇長期投与試験(ヒト)では、血液透析患者における夜間のかゆみスコアを改善させた
などの特性がある。
副作用に関しては、国内の臨床試験において、およそ40%の被験者に不眠や便秘などの副作用が確認された。
今回の追加申請の対象は慢性肝炎であるが、慢性肝疾患や慢性腎疾患を原因とする「痒み」は、μ-オピオイド拮抗薬・κ-オピオイド拮抗薬で治療を行う。こういった背景もあり、今回の追加承認申請となったのであろう。
しかし、レミッチの製品情報をみると、中等度から重度の肝障害のある患者は慎重投与となっており、中等度の肝硬変患者ではCmaxとAUCの上昇傾向がみられている。重度の肝硬変患者では検討がされていない。
これらの背景を考えると、慢性肝炎から肝硬変への移行が疑われる患者への投与はどうなのか、という判断が求められるのではないだろうか。今後の動向にも注目していきたい。
参考資料
鳥居薬品株式会社 そう痒症改善材「レミッチRカプセル 2.5μg」の国内における効能追加申請およびプロモーション提携に関するお知らせ
http://www.torii.co.jp/release/2015/20150303.pdf
同上 レミッチ 製品情報概要
http://www.remitch.jp/material/file/di_rmt.pdf
次世代質量分析システム開発と創薬・診断への貢献:FIRSTプログラム
第2回 薬学の未来を考える京都シンポジウム-創と療の革新-
世界初の新規止痒薬”ナルフラフィン”の開発とその意義
http://www.first-ms3d.jp/files/H22symposium/101030-utsumi.pdf
痒みと鎮痛の基礎知識 反応 かゆみ
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/itch.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
透析患者さんの「痒み」は非常に難治性が高い、ということは聞いたことがあります。透析すれば「痒み」は増すが、だからといって透析を辞めるわけにもいかない。大きなジレンマだと思います。
一方、今回追加申請の対象となった慢性肝炎も、「痒み」がとても強くなりますので、有効性の高い薬剤の登場が期待されていると思います。
ただ気になるのは、やはりレミッチの「肝臓への影響」です。慢性肝炎や慢性腎疾患の場合、今のところ根治術は無いと思いますので、ある程度病状が進めば、だれでも「痒み」は経験すると思います。
その時に「効くよ!」といわれれば、患者としては服用したくなりますし、肝臓の障害による痒み生じているのであれば、慢性肝炎から肝硬変に移行しても、痒みは残るでしょうし、やがて肝臓癌になっても痒みは残る場合もあるのではないでしょうか。
実際、常に「痒み」を訴えている肝臓癌の患者さんに会ったことがあります。もちろん、痒みの原因は肝障害だけではなかったかもしれません。でもそういう患者さんからすれば、痒みが治まる薬はぜひ服用したいと思うのではないでしょうか。
そうなった時に、このレミッチがいつまで服用できるのか。結論は出ないかもしれませんが、患者への正確な情報提供もして欲しいとは思います。
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