【医療ニュースPickUp 2015年7月18日】 ゲノムを知れば、的確な治療が見えてくる?動き出したゲノム医療
2015年7月15日、政府は「第4回 ゲノム医療実現推進協議会(以下、協議会)」を開催し、「ゲノム医療」の実用化に向けた推進方針をまとめた。今回の方針では、東北メディカル・メガバンクなど、国内にある三つのバイオバンクのデータが対象となっている。
オールジャパン体制でのゲノム研究を推進
それぞれのバイオバンクで管理されている情報を元に、認知症やがん、希少疾患などの発症に関わる、遺伝子に関する研究を重点的に進め、新しい治療法の開発や、治療効果の向上を目指す。来年度の予算案へ反映する方針。
「ゲノム医療」とは、人体の設計図ともいえるヒトゲノム(全遺伝情報)を活用し、患者個人のゲノム情報に合せ、もっとも適切な医療を提供する仕組みのこと。
認知症、がん、希少疾患などの発症や、有効性の高い薬剤を用いることでより効果的な治療を行うなど、まさに「オーダーメイド医療」とも呼べる手法だ。
「ゲノム医療」では、患者の遺伝子と健常者の遺伝子などを比較し、その違いを見出すことから始まる。さらに、抗がん剤ごとの「効きやすさ」や副作用が出やすい「体質」なども加味すれば、より有効性が高い薬剤を選択し、副作用を最小限にとどめられる可能性も秘めているといわれている。
また、これらのデータを生かせば、「より有効性が高く、副反応の少ない薬剤」の開発スピードも速くなるのではないかと期待されている。
ただし、現在の日本ではまだまだ課題もある。協議会が取りまとめた資料によると、これまでの取り組みの中で挙がった課題には、以下のようなものがる。
- 一般的な疾患は遺伝子配列だけでは説明できず環境因子等も強く関与
- 後天的な遺伝子変異について更なる研究が必要(がん等)
- 解析には一定の規模が必要であり、疾患によっては一事業では試料数が不十分
- 遺伝子の関与が比較的強いと考えられる希少疾患等の取組が必要
- 健常人ゲノムコホートの多くがその規模は十分でない、対象疾患によってはより大規模な取組が必要(コホートの連携・活用も含む)
協議会では、これらの課題を克服するために、「現場の臨床医から研究者及び産業界までが一体となり、明確な目標を設定し PDCA サイクルを実行しながらオールジャパン体制でのゲノム研究を推進する必要がある。」としている。
また、「2万人の新規発症者の獲得に要する疾患ごとの年数」は、母集団が100万人規模で20年程度で獲得できるが、50万人規模の場合は20年間でも限られた疾患のみしかデータを集約できないと考えられている。
こういった状況を鑑みると、研究が始まったからといってすぐに劇的な効果が見られるわけではない。しかし、いずれは「オーダーメイド医療が当たり前の時代」が来る可能性もある。今後の動向に注目していきたい。
参考資料
首相官邸 第4回 ゲノム医療実現推進協議会 配布資料
日本におけるゲノム医療実現に向けた研究の方向性と研究のマネジメントについて
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/dai4/siryou04.pdf
同上 ゲノム医療実現推進協議会 中間とりまとめ(案)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/dai4/siryou04.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
つい先日、「パクチーが好きかどうかは遺伝子が決める」という主旨の論文を読む機会がありました。なかなか面白かったのですが、一方で、全く別の研究では「コーヒーをよく飲むかどうかは遺伝子が握っていた」というものもあり、個人的には「え?そんなところにもDNA?」と思っていました。そんなことがあったので、今回のこのニュースは個人的には「どんどん進めて欲しい」と思っています。
ところで、なぜ今回は認知症・がん・希少疾患が対象だったのでしょうか。多くの理由が考えられますが、その1つが「対象となったバイオバンクに眠っている「データ」の内容」ではないかという気がします。対象となったバイオバンクは、次の通りです。
●東北メディカル・メガバンク:健常者(住民)コホートが対象であり、「ながはま0次予防コホート」「J-MICC Study(日本多施設共同コーホート研究)」「久山町コホート」などとも関連がある
●バイオバンク・ジャパン(BBJ):東京大学と理化学研究所が中心となった「疾患(患者)コホート」を対象としており、おり、がん、メタボ、循環器疾患、認知症など51疾患のデータを保管している
●ナショナルセンター・バイオバンク(NCBN):国立がん研究センター、国立国際医療研究センター、国立長寿医療研究センター、国立精神・神経医療研究センターなどが中心となった「疾患(患者)コホート」を対象としており、がん・認知症・生活習慣病・精神疾患・難病などのデータを保管している
この中には循環器疾患や糖尿病など、より患者数が多そうな疾患もありますが、これらは遺伝子よりむしろ「生活習慣」がキーになるので、ゲノム情報だけでは難しいようですね。
例えば20年後、私たちが高齢者の仲間入りをする頃には、何かしらの「良い成果」が出ていることに、期待したいと思います。
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