【医療ニュースPickUp 2016年3月2日】筋ジストロフィー発症原因を世界で初めて発見 神戸大学
2016年2月26日、神戸大学医学研究科戸田達史教授、金川基講師、小林千浩准教授、東京都健康長寿医療センター遠藤玉夫副所長、大阪府立母子保健総合医療センター和田芳直研究所長らの研究グループは、「筋ジストロフィーの発症する新たな原因を世界で初めて発見した」と公表した。この研究成果は、2月26日に米科学雑誌「Cell Reports」に掲載されている。
筋ジストロフィーへの治療法の開発に拍車がかかる可能性
筋ジストロフィーとは、次第に筋萎縮や筋力低下が進行する遺伝性の疾患であり、その過程で筋繊維の破壊・変性と、再生とを繰り返す。日本では難病指定の疾患であり、患者数はおよそ25,000人といわれている。
日本人では特に、「福山型筋ジストロフィー」が多いが、これは筋委縮や筋力低下のほか、かなり重度な知的発達遅滞、てんかんなど、中枢神経症状を合併するという特徴がある。
これまでの研究により、福山型筋ジストロフィー及び類縁疾患の発症原因には、
- 筋細胞表面にあるたんぱく質「ジストログリカン」に結合している糖鎖に異常が起きる
- 「ISPD」「フクチン」「FKRP」といった原因遺伝子が正しく機能していないこと
などが知られていたが、糖鎖の構造や遺伝子の働きは、明らかになっていなかった。
このような背景のなか、戸田教授らの研究グループは、培養細胞中に、生体と同じ糖鎖をつくりだすことに成功した。糖鎖の成分ごとの質量を測定したところ、「リビトールリン酸」という珍しい糖が糖鎖の中に存在することを発見した。
「リビトールリン酸」はこれまで、バクテリアや一部の植物でしか確認されていない物質だったが、今回の研究で、ヒトの体内で作り出す酵素が、「ISPD」「フクチン」「FKRP」であることも明らかになった。
さらに、「リビトールリン酸」の合成障害が疾患の原因であること、「リビトールリン酸」の原料となる「CDP-リビトール」を患者モデル細胞に投与すると、糖鎖の異常を解消することも明らかになったという。
神戸大学では、「今後、筋ジストロフィーへの治療法の開発に拍車がかかるのではないか」としている。
参考資料
神戸大学 プレスリリース 筋ジストロフィーの新たな発症原因を発見 治療法開発に期待
http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/research/2016_02_26_01.html
一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会 筋原性疾患(myopathies)
http://www.jmda.or.jp/6/hyakka/kin220.htm
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
筋ジストロフィーに「福山型」といわれる病態があることを、今回初めて知りました。少し調べてみると、日本筋ジストロフィー協会のサイトの中に、今回の研究グループの戸田教授へのインタビュー記事が掲載されていました。
世界的にみると、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」というタイプがもっとも多く、日本でも「福山型」より患者数が多いといわれているそうです。しかし、遺伝子型などの研究が進み始めている近年では、デュシェンヌ型よりも福山型の方が治療法の開発が進むかもしれない、という状況にあるようです。
福山型の発症率としては、日本人10万人に3人ぐらいだといわれているそうですが、遺伝子変異を1個もつ、いわゆる病気にはなっていない保因者は、約90人に1 人と言われているとのこと。…意外と多いですよね。
私自身の親類縁者には、筋ジストロフィーの病歴がある人はいませんが、90人に1人が遺伝子変異をもっているのなら、本人が気づいていないだけで、今後も発症する可能性は少なくはないと思います。遺伝疾患なわけですし、胎生期にすでに何らかの変化が起きているとなると、早期の治療は難しいものなのかもしれません。
胎生期治療って、まだ日本では一般的ではありませんよね。
今後、今回の研究成果を通じ、治療法が確立されることに、期待しています。
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