【医療ニュースPickUp】2015年5月16日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
救急車が有料化されたら “入院判定”がカギ?
2015年5月12日、財務省が財政再建策の1つとして提案している、救急出動の一部有料化案について、麻生太郎財務相は「酔っ払ってひっくり返ったら救急車(を呼ぶ)という話がある。タクシーで自分で払え、あたり前だという話は何十年も前からある」と述べた。
そもそも麻生氏のその一族は、複数の医療機関等を抱える“麻生グループ”を経営している。
麻生氏はかつて、社長を務めていた時期もあることから、「病院をやっているから、(救急車で)どの程度の人が来るかよく知っている。現場を見て判断した方がいい」とも語ったという。
消防庁の統計では、救急搬送された患者の49.9%は、入院の必要がない軽症者が占めていることが分かっている。ここ数年、救急搬送要請件数は増加傾向にあり、救急車でまかないきれない場合には消防車(ポンプ車)が先に駆けつけるという“PA連携”が行われるようになって久しい。
こういった背景もあり、財務省は11日に行われた財政制度等審議会で、“軽症で救急車を呼んだ人に費用を請求する案”を提出した。年間およそ2兆円が必要となる、消防関係の予算を減らす狙いだ。
財務省が提出している資料では“行政サービスの効率化”という項目で、救急搬送の有料化を提案している。ここ10年ほどで救急搬送件数は2割増加しており、このままではさらに増加傾向が続くことが予測されるという。
諸外国ではすでに一部有料化されている国もあり、例えばアメリカには救急車が消防・民間・ボランティアの3パターンがあり、それぞれで料金が違う。
またフランス(パリ近郊)では医療機関が組織する救急医療本部SAMUを利用すると、30分でおよそ3万4千円が必要で、重症事例のみ無料で消防の救急車を利用できる。
さらにシンガポールでは非緊急だった場合、およそ60S$~120S$が請求される仕組みとなっている。
財務省としては“フランスなどの例を参考に、軽症の場合の有料化を検討すべきではないか”としている。ではその線引きは何を基準にすれば良いのか。
消防庁では統計上、搬送時の重傷度を次のように分けている。
●死亡:初診時において死亡か確認されたもの
●重症:傷病程度が3週間の入院加療を必要とするもの以上
●中等症:傷病程度が重症又は継承以外のもの
●軽症:傷病程度が入院加療を必要としないもの
●その他:医師の診察がないもの等
実際、2013年中の統計では、軽症が49.9%だったが、中等症は39.5%、重症が8.9%、死亡が1.5%だった。
今回の提案の中では“軽症を有料化”としているが、これを基準に考えるならば“救急車で来院しても入院しない患者”が有料、ということになる。つまり、入院の必要性は医師の判断にゆだねられることとなり、入院しない=その場で請求しなければならない、ということになる。
未だ具体的な金額についての明示はないが、仮に1回あたり4万円と考えると、2013年の統計データからは
4万円×5,340,117人×軽症者およそ50 ≒106.8億円
と試算できる。
医療費が財政を圧迫している日本では、この有料化による収入は大きい。タクシー代わりに救急車を要請する患者、それにより本当に必要な患者の搬送が遅れることを考えても、必要な施策かもしれない。
しかしその一方で、特に貧困層など“有料だから救急車要請を躊躇する”ことによる重症化や死亡など、今後の課題も多く含まれていることに注目すべきであろう。
参考資料
朝日新聞 救急車、軽症なら費用請求案 麻生財務相「現場見て判断を」
http://apital.asahi.com/article/news/2015051300009.html
財務省 地方財政について 平成27年5月11日(月)財務省主計局
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia270511/01.pdf
総務省消防庁 平成26年版 消防白書
http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h26/h26/index2.html#feature1
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
救急車の有料化、個人的には賛成です。数年前から、救急車の不足は問題でしたし、救急車より先に消防車が急行しているケースも、実際によく見かけます。
それだけ、搬送要請に対する救急車の配備が足りていない、ということですから、救急要請自体の抑止にもなるのではないかと思います。
ただ、酔っぱらって転んだから救急車を呼んだ→入院の必要が無いと判断された→救急車搬送費用を請求されたことに怒って患者(とは呼べないけど)がモンペ化 というのは非常にありがちなケースなのかと思います。
救急外来の医師や看護師は、こういった患者(もどき)を上手く扱うというスキルも必要かもしれません。
あるいは、大したケガや病状ではなくても親が大騒ぎして救急車を呼んでしまうケース。こういった場合も、入院させてくれない上に救急搬送費用を請求、という時点で、病院内で大騒ぎしそうです。これが夜間だったりすると、一気に病院職員のストレスは強くなります。
その一方、特に高齢者のみ世帯や貧困層など、“もし有料になると払えないから”と自己判断して、救急車を呼ばないケースも多く出てくるでしょう。
“明日から軽症の場合は有料です”とするのは簡単ですが、費用回収をどうするか(本当に全軽症者から徴収するのかも含め)、その金額はいくらが妥当なのか、検討すべき課題はまだまだたくさんありそうですね。
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート