【医療ニュースPickUp 2015年11月16日】 膵臓がん早期発見につなげたい 国がんが新たなバイオマーカーを発見
2015年11月9日、国立がん研究センター(東京都中央区、以下 国がん)は、血液中のアポリポプロテインA2(apoA2)というタンパク質のアイソフォーム(タンパク質の構造や機能が似通った分子の総称)が、早期膵がんや膵がんリスク疾患で低下することを発見していたが、この研究が、米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)との共同研究においても、既存のバイオマーカーに比べて高い精度で早期膵がんを検出できることが確認されたと公表した。
この研究成果は、英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に、11月9日午後7時(英国時間同日午前10時)付けで掲載された。
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研究グループは、2012年に行った質量分析の結果から、apoA2アイソフォームが膵がんや膵がんリスク疾患の患者で低下することを見出し、報告していた。今回はこれをさらに進める形で、NCIとの共同研究が行われた。
今回の研究では、アメリカ国内の早期膵がん患者(I期、II期膵がん98例)を含む252例の血液を用いてapoA2アイソフォームを測定した。盲検下での確認試験を行ったところ、健常者と比較し、早期膵がん患者ではapoA2アイソフォームが低下していることが確認された。
さらに、既存の膵がんバイオマーカーであるCA19-9と比較しても、高精度でI期、II期膵がんを検出できることも確認されたという。NCIでは、「apoA2アイソフォームが、膵がんにおける信頼性の高い血液バイオマーカーとなりうる可能性がある」と評価しているという。
同研究グループはさらに、ApoA2アイソフォーム検査を実用化するための、簡便な検査法の開発を行い、検査キットの作製にも成功した。国内7カ所で行われた「多施設共同研究」において集められた、血液検体(膵がんを含む消化器疾患患者と、健常者の血液検体286例を含む合計904例分)を、同検査キットで測定、その判別性能を検討した。
その結果、CA19-9よりも、高精度に早期膵がんを検出できた。
同研究所は今後、膵がん検診の効率化を目指した「血液バイオマーカーの実用化」を目的として、「apoA2 アイソフォームを用いた膵がん模擬検診」を開始する予定(神戸大学の協力による)。この模擬検診を含めた更なる研究を行い、apoA2アイソフォームの検査が、早期膵がんや膵がんリスク疾患を適切にスクリーニングし、検診に実用化できるかどうか、確認を続けていくとしている。
また、同検査キットは研究用試薬となることから、今後は、体外診断薬としての承認を得ることも目指すという。
膵がんはそもそも、早期発見が困難ながんであり、他のがん種と比べ、罹患数と死亡数がほぼ同数であるなど、非常に予後不良ながんである。膵がんの治療成績向上のためには、血液検査などによって、早期膵がんや膵がんのリスクが高い疾患をスクリーニングし、さらに「画像検査などによる精密検査」により病変を捉える「早期診断法の開発」が必要とされていた。
参考資料
国立がん研究センター 膵がん早期診断の血液バイオマーカーを発見
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20151109.html
がん情報サービス 最新がん統計
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「分かった時は、すでに手遅れ」と言われている膵臓がんですが、年間でおよそ3万人以上が、膵臓がんで亡くなっているそうです。罹患数と死亡者数がほぼ同じ、というところを見ても、その凶悪さが分かります。
そういえば、私自身はおよそ8年、手術室での勤務経験がありますが、PD(膵島十二指腸切除術)などは、年に数件くらいの件数だったと思います。
2つの病院での勤務経験がありますが、1つ目は比較的「肝胆膵を専門に診療する」第一外科がありましたが、2つ目は肝胆膵よりも胃・大腸・乳房あたりが多かったかもしれません。
そういった違いがあったとしても、年に3万人以上が罹患しているにも関わらず、やはり市中病院では、年間数件くらいしか手術が適応されない疾患なのか、と改めて思います。
化学療法や放射線治療を行う患者さんが多かったのかもしれませんし、そもそも大学病院などで行われることが多い手術なのでしょう。
膵臓って、ヒトが生きていくためには非常に重要な臓器である反面(インスリン分泌は膵臓だけですからね)、ダメになったことを自己主張しない、控えめな臓器ですよね。だからこそ、労わってあげなくてはならない臓器なわけで、まずは暴飲暴食を控え、膵臓の働きを軽くしなくていけません、と改めて心に誓いました。
ほんの少しの自己主張を的確に捉えるという今回のニュースは、数年後の罹患率と死亡率の関係を、大きく変えるものかもしれません。
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