【医療ニュースPickUp 2017年5月13日】医師の働き方の是非を問う?聖路加病院への労基署立ち入り検査が話題に
聖路加国際病院(東京都中央区)への、労働基準監督署による立ち入り検査が、にわかに話題となっている。きっかけは、2017年5月10日に日経メディカルが報じた「医師こそ働き方改革を《動き出す労基署》」という特集記事だ。
医療業界にインパクトを与えた今回の労基署の動き
日経メディカルではこの記事の中で、「最近の立ち入り事例の中でもインパクトが大きかったのが聖路加国際病院(東京都中央区、520床)のケースだ。中央労働基準監督署が2016年6月、調査を実施。病院側は医師の時間外労働の削減などを求められ、その影響で診療体制の縮小を余儀なくされた。」と報じている。
この記事の中では、労働基準監督署からの指摘事項として、2つの事柄が挙がったという。
- 36協定の上限を超える時間外労働が行われており、医師の長時間労働が常態化していること
- 夜間・休日の勤務実態は、宿日直とは認められないこと
これに対し聖路加国際病院側では、外来・救急の縮小や、夜間業務負担の平準化、残業時間のコントロールなどで(医師の)時間外労働を削減するとともに、これまで支払ってきた宿日直手当ではなく、時間外の割り増し賃金を支払う形にした、としている。
聖路加病院側では、およそ過去2年間以内にさかのぼり、本来支払うべきであった時間外の割増賃金、および実際に支給してきた宿日直手当の差額分を支払ったとされている。
この記事の中には、聖路加国際病院の院長へのインタビューも掲載されているが、
- 医師にとって「自分の時間は患者のもの」という感覚が通用しなくなった
- 医師の時間外勤務に対する改善策を講じたことで、それまで月平均95時間だった残業時間が、50時間に減った
- 但し、36協定に従うと、時間外労働時間を45時間以内に抑えなければならない月は、他の医師にしわ寄せがいく
と述べている。結果的に、年間1万件以上あった救急搬送の受け入れを縮小し、今年の5月からは全科の土曜日外来も中止すると報じられている。
参考資料
日経メディカル 特集◎医師こそ働き方改革を《動き出す労基署》
聖路加病院に労基署、土曜外来を全科廃止へ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t291/201705/551216.html
厚生労働省 時間外労働の限度に関する基準(リーフレット)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-4.pdf
厚生労働省 我が国における時間外労働等の現状
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000150160.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
なぜかここ数日、「聖路加病院に労基署が立ち入り検査に入った」というニュースが、Web上で多く散見しています。そのきっかけは、今回取り上げた、日経メディカルの特集記事だったようです。
実際の立ち位置検査からすでに1年近くが経過していますが、「今年の5月から土曜日の外来を中止する」ことが、ポイントの1つなのかもしれません。実際に、聖路加国際病院のサイトを見た限りでは(今後、何かしらの変更がなされるのかもしれませんが)、「土曜日の外来を中止する」という記述は見当たりませんし、診療科によっては「土曜は手術日のため…」という記述も無くなってはいません。
さて、本文中にも出てきた「36協定(さぶろくきょうてい)」ですが、特に医師に関しては、この取り決めとは違う勤務体制であることが多いと思います。試しに、本来の36協定がどういうものか、厚労省の資料から抜粋してみます。
でも実際、この範囲内のみで勤務し、それで病院の運営がきちんと回っている病院は、全国でどれくらいあるのでしょうか。厚労省の資料によると、およそ半数以上の保健栄衛生業(職業分類が大ざっぱなので、恐らく病院はこれに該当すると思われます)では、36協定の締結が無いとなっています。
また、36協定の締結があっても、全体の4割以上は、特別条項がありません。
このデータを見る限りでは「医療者の長時間勤務が横行している」とも捉えられますが、でも現実的には、目の前に患者さんがいれば、それを放り出して「時間だから帰る」ことは難しいでしょう。もちろん、それを補うだけの医師が病院内にいれば良いのですが、夜間や休日での対応を余儀なくされる病院では今後「朝から夜まで働く医師」だけではなく「夕方から翌朝まで働く医師」や「休日出勤がメインの医師」が必要となるのかもしれません。
現在の診療体制を維持するのか、診療体制を縮小してでも医師の勤務時間を短縮するのか。医師の働き方として、大きな問題を投げかけたニュースだったといえるでしょう。
先般、当サイトのコラムでも、「医師の短時間正社員という働き方」について触れましたが、医師の生活を確保し、さらに病院運営も健全化させるためには、こういった働き方も増えてくるのではないでしょうか。
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