【医療ニュースPickUp 2017年8月7日】iPS細胞を応用した治療薬、京大が初の治験へ――骨の難病治療
8月1日、京都大学iPS細胞研究所(以下、CiRA=サイラ)は、希少難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の予防効果が期待される薬剤の候補を、iPS細胞を使って発見し、近く臨床実験を行うことを発表した。
発見したのは、CiRAの戸口田淳也教授らの研究グループで、iPS細胞を使った創薬研究の成果としては、世界初。治験を行う薬は、既存薬の「パラマイシン(一般名:シロリムス)」で、京都大学医学部付属病院など4大学病院で治験を行う。
FOPは幼少期から筋肉や腱などの軟らかい組織の中に骨ができる難病で、200万人に1人の割合で発症する。骨になった部分は徐々に四肢全体に広がり、運動機能障害を引き起こしていく。国内の患者は約80人と推定されるが、これまで有効な治療薬がなかった。
研究グループは、FOP患者の組織から作ったiPS細胞を用いて培養皿の中にこの疾患を再現し、FOPの引き金となる物質「アクチビンA」を突き止めた。さらアクチビンAの刺激から異所性骨化が生じるメカニズムを解明するために、6809種類の化合物を加えて検証。その結果、「mTOR」というシグナル伝達因子が重要な働きをすることを確認した。
この「mTOR」の働きを阻害する薬剤のうち、日本で販売されている免疫抑制剤「ラパマイシン」が、特に症状の抑制を期待できる物質とわかり、治験の候補として挙がった。
京都大学医学部付属病院の審査委員会はこの計画をすでに承認しており、医薬品医療機器総合機構(PMDA)への治験計画届を提出、受理されている。近く、実際の患者に候補薬の投与を始め、安全性や効果を確認していくこととなる。
この治験は京大病院の他、東京大学、名古屋大学、九州大学で実施。実際に患者を受け入れるのは、最も早い京大でも9月以降となる見通し。
参考資料
京都大学 iPS研究所
FOPにおける骨化を抑える方法の発見 ?FOPの異所性骨形成のシグナル伝達メカニズムの解明
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/170801-140000.html
京都大学 研究・産官学連携 iPS創薬に向けた世界初の治験を開始(2017年8月1日)
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/170801-091500.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
iPS細胞研究は、様々な分野で進んでいるのだと思いますが、「iPS研究による治験が世界初」というのは、やはり日本の、CiRAの快挙なのだと思います。「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」というのは、聞き慣れない疾患名でしたので、少し調べてみました。
- 異所性骨化は、背中や首、肩、足の付け根から始まる
- 徐々に手足の先の方に向かって広がる傾向があるため、手の指の動きまで悪くなることは少ない
- 呼吸に関係する筋肉や口を動かす筋肉の動きも悪くなる
- 呼吸障害が起こる、口が開けにくくなる
- しかし、心臓を含む内臓の筋肉には異所性骨化を生じない
体の一部が強い痛みを生じ、徐々に動かなくなるというのは、ご本人にとっては非常に辛い状態であることは、想像に難くありません。
現在考えられる治療法としては、基本的には「フレア・アップ」が生じた際、異所性骨化の進行を防ぐために、ステロイド、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ビスフォスフォネートなどが使用されており、海外では、フレア・アップ後の骨化を予防すべく、治験が行われているようです。
しかし、そもそも「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」自体が希少疾患であるため、患者さんの数は世界的にみても多くはありません。そのような背景の中で、iPS細胞を使って「培養皿の中で病気を再現」出来たというのが、素晴らしい成果なのだと思います。
ヒトiPS細胞の発見からおよそ10年。今後もこういった「きっと誰かのためになる」研究は、ずっと続いて欲しいと思います。
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