【医療ニュースPickUp 2016年3月27日】「過誤腫」発生メカニズムが明らかに 遺伝子変異がてんかん発作の原因?
2016年3月25日、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)は、「脳になる細胞での突然変異が、視床下部過誤腫の原因になる」という研究結果を公表した。この研究は、浜松医科大学医化学講座の才津浩智教授、横浜市立大学遺伝学講座の松本直通教授、西新潟中央病院の亀山茂樹先生、園田真樹先生らの共同研究グループによるもの。
日本での患者数は不明
研究グループは今回、「将来的に脳になる細胞に生じる“GLI3”および“OFD1”の変異が、薬剤抵抗性のてんかん発作を引き起こす“視床下部過誤腫”の原因となること」を発見したという。これらの遺伝子変異が起こることで、形態形成に重要な役割を果たしているShh(ソニックヘッジホッグ)シグナルが障害されることが強く示唆された。
この研究成果は、アメリカ神経学会のオープンアクセスジャーナルである「Annals of Clinical and Translational Neurology」に、日本時間3月25日(金)5時に公表された。
視床下部過誤腫とは、視床下部の一部分に先天的な奇形(過誤腫)が生じる疾患で、多くの場合「弧発例」であり、そのうちの一部は「パリスタ・ホール症候群」や「口顔面指症候群」などが認められる。北欧では20万人に1人といわれるが、日本での患者数は不明である。
過誤腫辞退は脳組織と似ており、薬剤抵抗性のてんかん発作の原因とされてきた。早期治療が必要な疾患であり、近年、「定位温熱凝固術等の治療法」が開発された。
研究グループは今回、「定位温熱凝固術」の施行時に採取した過誤腫組織と血液白血球の遺伝子配列を比較し、過誤腫組織のみに認められる遺伝子変異を探索した。その結果、16人中5人から、「GLI3遺伝子」あるいは「OFD1遺伝子」の変異を発見した。「OFD1遺伝子」は男性のみに認められた。
今回の研究成果により、「GLI3遺伝子」の変異体が、下流の標的遺伝子の転写を抑制している可能性が強く示唆された。また、OFD1遺伝子はX染色体に位置しますが、OFD1変異は男児でのみ同定されたことから、「GLI3遺伝子」の変異により「OFD1遺伝子」の機能が著しく低下すると予測される。
また、今回遺伝子変異が見つかった5症例では、1症例を除いて手足や口腔の奇形が認められなかったことから、将来的に脳になる細胞の一部にGLI3あるいはOFD1遺伝子の変異が生じると、Shhシグナルの障害が起き、全身の奇形を伴わない“視床下部過誤腫”が形成される」ことが示唆された。
参考資料
日本医療研究開発機構 脳になる細胞での突然変異が視床下部過誤腫の原因に―形態形成に重要なソニックヘッジホッグシグナルの障害と視床下部過誤腫の関係が明らかに―
http://www.amed.go.jp/news/release_20160325.html
Somatic mutations in GLI3 and OFD1 involved in sonic hedgehog signaling cause hypothalamic hamartoma
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/acn3.300/full
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
お恥ずかしながら、「視床下部過誤腫」って、初めて聞いたような気がします(聞いたことはあっても、すでに記憶の彼方に追いやられているのかは不明)。日本人の患者数ははっきりしないようですが、スウェーデンの有病率(20万人に1人)を当てはめると、日本人の20歳未満の中に125人程度、と推計されるそうです。
「笑い発作」という言葉だけは聞いたことがありましたが、内容はよくわかっていなかったので、今回のこのニュースは非常に勉強になりました。
ところで、「視床下部過誤腫」を調べていると、「視床下部過誤腫センター」なるものに行きあたりました。推計患者数が少ないとはいえ、「○○センター」があるのは納得できます。しかし、場所が西新潟?国立病院機構の病院ですが、大学病院などとは違います。なぜ??と思って読み進めると、この病院の亀山茂樹先生らが、画期的な術式である「定位温熱凝固術等の治療法」を開発したのだそうです。
この術式は先進医療として世界中から注目を集めており、お隣の韓国だけではなく、南米(ブラジル)、ユーラシア大陸の各地からヨーロッパまで、多くの国と地域から患者さんが来ているようです。それだけの国から患者さんが集まる病院って、日本でも数少ないのではないでしょうか。手術をされるDrたちもですが、看護師さんたちも大変だろうな(特に言葉の壁が)など、考えてしまいました。ある意味、嬉しい悲鳴かもしれませんが。
場合によっては再手術が必要なケースもあるようですが、手術によって劇的に改善するなら、国境を越えてでも治療を受けにきますよね。今後の研究も含め、救われる子どもたちが増えると良いなと思います。
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