【医療ニュースPickUp】2015年4月22日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
CT検査などによる医療被ばく抑制への動き
2015年4月19日、日本医学放射線学会など12の団体で構成される「医療被ばく研究情報ネットワーク」は、CT撮影において目安となる放射線量の基準をまとめたと公表した。
これにはかねてから問題視されてきた、不要な「医療被ばく」を軽減する目的がある。
背景には、「同一の検査を行っても、医療機関ごとに放射線量のバラつきがある」という事実がある。
実際にCT撮影などの画像検査で使う放射線の量は、モダリティメーカーが推奨する値を参考として、それぞれの医療機関で決めている。
もちろん、高い線量を使えばそれだけ鮮明な画像が得られることが分かっているが、機種によっては、線量が低すぎると診断に支障を来す可能性もある。そのため、制限値が高すぎると被ばくの懸念が生じる可能性を考慮しつつも、これまでは制限が設けられていなかった。
その一方で、日本は「医療被ばく大国」とも呼ばれている。
人口10万人あたりに対するCT装置の台数が、世界でも群を抜いて多い。
OECD(経済協力開発機構)が過去に行った調査では、OECD平均が22.8台であるのに対し、日本は94.1台で第1位。2位のオーストラリアが56.0台であり、日本はオーストラリアの1.7倍の台数を保有していることになる。
この調査が行われたのは2009年であり、現在はその差がさらに広がっている可能性もある。
CT装置の台数が増えれば、それだけ検査件数も増え、医療被ばく量も増える。例えば実際の被ばく線量の推計値をみると、胸部X線撮影が1回あたり0.06mSv、核医学検査が0.5~15mSvであるのに対し、CT撮影では5~30mSvになる。
これは今回公表された基準を考慮しての数値であり、それだけCT撮影における被ばく量が多いことが分かる。こういったことからも、今回の基準値の決定が必要と考えられていた。
放射線医学総合研究所では、2015年1月から医療被ばく情報の自動収集・解析システム(WAZA-ARIv2)の試験運用を開始している。あくまでも協力医療機関からのデータ収集を行い、データベース化することが目的であるため、全医療機関の状況を把握しているとは断言できない。
ただしこのシステムを利用することで、他の医療機関での状況、患者の年齢・性別・体型などを加味した、各臓器での実際の被ばく量の計算も可能になる。
今回公表された基準値もあくまで基準値であり、それを超えるかどうかは医師からの指示、放射線技師の技量にもかかっている。決められた“基準値”と実際の現場からのデータとの関連性はどうなるのか。今後の動向にも注目したい。
参考資料
NHKニュース CT検査など医療被ばく抑制へ基準
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150419/k10010053501000.html
放射線医学総合研究所 医療被ばく研究プロジェクト
CT検査の診断参考レベルについて
http://www.nirs.go.jp/rd/structure/merp/j-rime.html
同上 医療被ばくについて
http://www.nirs.go.jp/rd/structure/merp/medicalexposure.html
放射線医学総合研究所 CT検査など医療被ばくの疑問に答える
医療被ばくリスクとその防護についての考え方Q&A
http://www.nirs.go.jp/rd/faq/medical.shtml#anchor_08
同上 医療被ばく情報の自動収集・解析システムの試験運用を開始
-放射線診断での被ばく線量の適切な低減に向けた取組への道筋-
http://www.nirs.go.jp/information/press/2015/01_30.shtml
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回、日本のCT保有台数の多さには驚きましたが、それだけ迅速かつ的確な診断に役立つのであれば、喜ばしいことなのだとは思います。そこに、無用な検査が含まれていなければ、の話ではありますが。
今回、各メディアから一般にも分かる形で報道されたことは、個人的には「患者からの検査拒否がおきないか」というちょっとした懸念があります。
もちろん、一般の人も実情を知る権利がありますし、報道側としては伝える義務もあるかもしれません。放射線技師を含むコメディカルも、知っておくべき情報ではあります。
ですが、患者さん側の視点で考えると、「CT検査は被ばく量が多いのか!じゃあ他の検査で代用してくれ!」という人も、少なからず出てくるのではないでしょうか。
医師としてはこういったデメリットも考慮し、それでもCT検査による迅速かつ的確な診断が必要であり、メリットの方が大きいからCT検査が必要、ということなのですけどね。こういったやや偏った情報だけが、一人歩きしなければ良いのですが。
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