【医療ニュースPickUp 2016年3月11日】iPS細胞から「眼」を作り出すことに成功 大阪大学の研究チーム
2016年3月10日、科学技術振興機構(JST)は、大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)の西田 幸二 教授、林 竜平 寄附講座准教授らの研究グループが、「ヒトiPS細胞から眼全体の発生再現と角膜上皮組織の作製に成功した」と公表した。この研究成果は、「Nature」電子版にて、2016年3月9日(英国時間)より公開されている。
ヒトiPS細胞を用いた新規角膜再生治療法
研究グループは今回、ヒトiPS細胞に対して、細胞自律的な分化を促し、眼全体の発生を再現させる「2次元培養系」の開発に成功した。
これまでの研究では、網膜および網膜色素上皮などのみを誘導する技術の報告はなされていたが、角膜や水晶体等(眼球の前側の部分)と、網膜や網膜色素上皮等(眼球の後側の部分)の両方を、同時に誘導できる技術は世界初だという。
外傷や疾患などにより角膜上皮の幹細胞が失われた場合、これまでの治療法としては、角膜移植が行われてきたが、拒絶反応のため治療成績は限定的であり、ドナー不足の問題もあるため、治療が困難となることも少なくなかった。
今回の研究チームのメンバーである西田教授らはこれまで、前述のような課題解決に向け、口腔粘膜の上皮細胞を代替細胞として移植する「自家培養口腔粘膜上皮細胞シート移植:COMET」を発し、臨床応用を行ってきた。従来の角膜移植術よりも治療成績は向上したが、長期的な観察を行うと、角膜と口腔粘膜の性質差に起因すると考えられる事象(角膜内への血管侵入による再混濁など)が生じ、COMETの効果は限定的であることも分かってきた。
一方、ヒトiPS細胞により「免疫拒絶を起こさない自家細胞」からの角膜移植などが可能になれば、難治性角膜疾患に対する「再生医療のための細胞源」として期待できる。しかし、これまでにヒトiPS細胞を用いて機能的な角膜上皮組織を作りだす技術までは、確率されていなかった。
そこで西田教授らは、画期的な技術の1つとして、ヒトiPS細胞を用いた新規角膜再生治療法」の開発に取り組んできたという。
今回の研究において開発された培養系では、ヒトiPS細胞から同心円状の4つの帯状構造からなる「2次元組織体(self-formed ectodermal autonomous multi-zone:SEAM)」を誘導することに成功した。
このSEAMの3番目の帯状構造の中から、「角膜上皮前駆細胞」を単利し、機能的な角膜上皮組織を作製することに成功した。さらに動物モデルへの移植により、治療効果を立証した。
本研究成果は、iPS細胞を用いた「角膜上皮再生治療法」の進展に、大きく貢献すると期待される。さらに、角膜だけではなく、眼科領域における再生医療の開発に寄与する可能性を秘めている。
参考資料
科学技術振興機構 プレスリリース 共同発表
ヒトiPS細胞から眼全体の発生再現と角膜上皮組織の作製に成功~難治性角膜疾患に対する新たな再生医療の開発に期待~
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160310/index.html
PubMed
Co-ordinated ocular development from human iPS cells and recovery of corneal function.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26958835
Nature
Co-ordinated ocular development from human iPS cells and recovery of corneal function
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature17000.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
今回は、JST&AMED&大阪大学による、共同発表からです。
この事業、AMEDも関係しているようですが、AMEDのサイトの中ではなかなか見つからず。AMEDは(ということは国家的にも)、再生医療の技術の確立やその応用に力を入れているようですので、今回の研究以外にも、「iPS細胞を用いた」とか「再生医療の」などの言葉が並ぶ研究が、いろいろと採択されていますよね。
今回は「眼」ですが、今後はこれが「肝臓」とか「心臓」とか「脳」とか、さまざまな器官へ分化していくのだと思います。
個人的に早いとこ出来たら良いなと思うのは、「iPS細胞による膵臓」です。動脈硬化とか心疾患・脳血管障害などを考えると、血管もそうなのかもしれませんが、血管を全部入れ替えることは無茶だとは思いますので、まずは「膵臓」、その後は「肝臓」や「腎臓」でしょうか。
この辺りが「医療技術」として確立すれば、糖尿病も肝疾患も重症化することは減るでしょうし、透析患者さんもある程度は減るかもしれません。
特に、子どものころからの1型糖尿病により、人生の8割以上の時間を、インスリン自己注射などでコントロールしていかなくてはならない人たち(子どもたち)には、その恩恵が届くと良いなと思います。
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