【医療ニュースPickUp 2015年10月29日】 「孤食」の高齢者はうつを発症しやすい 男性の孤食は2.7倍のリスク
2015年10月27日までに、東京大学や千葉大学などの研究グループは、「独居で孤食となっている高齢男性は、誰かと同居したり、一緒に食事をとっている人に比べて、うつ病を発症する割合が2.7倍高くなる」との研究成果を公表した。
追跡調査の結果、男女で異なる結果がでた
この研究の対象は、2010年と2013年に行われた、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study, 日本老年学的評価研究)調査に参加した、全国24市町の「要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者」のうち、2010年時点では「うつ症状がなかった」人。食事をとる時の状況と、3年後(2013年)の「うつ症状の発症(老年期うつ病評価尺度で5点以上)」との関連性について分析を行った。
実際に分析を行ったのは、世帯および孤食の情報がない人、歩行・入浴・排泄に介助が必要な人を除く、男性17,612名、女性19,581名のデータであった。
3年間の追跡調査を行った結果、次のことが確認された。
- 男性:独居(ひとり暮らし)で孤食だとうつを発症しやすいこと
- 女性:世帯に関わらず孤食だとうつを発症しやすいこと
特に「独居男性」では「孤食」だと共食に比べて2.7倍、うつを発症するリスクが高った。女性では同居でも独居でも「孤食」であることが、共食に比べて1.4倍のうつ発症リスクに繋がることが分かった。
そもそも「食事」とは、単に栄養素を摂取するだけではなく、精神的な健康を保つ上でも、重要な役割を担っているといわれている。
例えば、子どもや青年を対象とした研究によると、「誰かと食事を一緒にとること」が、不健康な食行動、肥満、飲酒や喫煙習慣、うつや自殺念慮などに対して、ブレーキをかける役割を担う可能性を報告するデータもある。
こういったデータを鑑みると、退職や子どもの独立、配偶者との死別など、自分を取り巻く社会関係が大きく変化する高齢者にとっての食事は、「自分以外の誰かと交流する」という、社会的に重要な役割を担っていると予測することができる。これらの背景があることから、今回の研究が行われた。
今回の研究からは、男性の場合は、「独居」かつ「孤食」であることが、うつ発症リスクとなる可能性が指摘された。一方で女性の場合は、独居であるか同居であるかに関わらず、「孤食」が、うつ発症リスクとなる可能性が示された。この結果からは、食事の時に自分以外の誰かとのコミュニケーションをとることが、高齢者の心理状態に良い影響を与えると考えられないだろうか。
研究者たちは「高齢化に伴う世帯状況の変化に介入することは難しいですが、家族や友人、近隣の人達をまきこんで共食を推奨することや、自治体で会食やコミュニティレストランを開催することなどで、孤食でなく共食を進めることが高齢者のうつ予防に効果的かもしれません。」と述べている。
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
「一人でご飯を食べる」ことは、実に様々な影響を及ぼす、ということでしょうか。今回のデータを見て、個人的に面白いと思ったのは、
男性:同じ孤食でも、誰か同居人がいれば少しはマシ
女性:同居人の有無に関わらず、とにかく孤食は良くない
となっている点です。
つまり、かなり極論に近いかもしれませんが潜在的に、男性は「生活そのものを誰かと一緒に」を望み、女性は「とにかく食事の時は誰かと話したい」ということですよね。よく、街中で平日の昼間に、ママ友とランチをしているのであろう、女性(と子供)のグループをみかけますが、これは理に適っている行動であるとも考えられます。
一方で、独居老人のお宅やその周辺には、イヌやネコがいることが多いように思いますが、これは気のせいなのでしょうか。いずれにしても、「うつ病の発症要因」には実にいろいろな因子がありますが、その1つに「孤食」が加わったことは、高齢者が集まりやすい食事処とか、ランチサークルなどが増えることに、つながるのかもしれません。
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