【医療ニュースPickUp 2016年3月4日】世界初の病院設置型がん治療装置を導入 国立がん研究センター
早ければ2016年度中の臨床試験を目指す
「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)」と呼ばれるシステムとは、株式会社 CICS(代表取締役社長:今堀良夫、東京都江東区、以下「CICS」)が開発したリチウムターゲットシステムに、株式会社日立製作所の子会社である AccSys Technology, Inc.(会長:浅野克彦、米国カリフォルニア州、以下「AccSys」)が開発した「直線加速器」を用いたシステムある。
国立がん研究センターは2014年、中央病院内に新診療棟が完成したが、その時に「加速器室」ならびに「BNCT 室(照射)」を設置し、 BNCT システムを導入、性能試験を経て、2015 年 11 月には、「原子力安全技術センターの施設検査」に合格していた。
リチウムターゲットを用いた BNCTは、世界的にも注目される、新しい放射治療システムである。BNCT システムは、薬剤(ホウ素製剤)を腫瘍細胞に集積させ、放射線の中性子を照射して中性子線により核分裂させことで、発生したα粒子(ヘリウム原子核)とリチウム原子核が、がん細胞を死滅させる。人体への影響が大きい「高速中性子の混在」が少ないことが特徴である。
これにより、放射線治療による副作用や、照射回数が複数回に及ぶなど、これまでの放射線治療で問題となることが多かった点が、大きく改善されると期待されている。一方で、リチウムには「融点が低い」という特徴があるため、システム開発が難しく、世界的にもまだその実用化には至っていない。
BNCTシステムの構造は、大きく3つに分かれている。
- 陽子線を加速させる「加速器:(がん治療専用のサイクロトロン)」
- サイクロトロン加速された陽子線を、中性子照射治療部照射装置まで運ぶ「ビーム輸送装置」
- 輸送された陽子ビームターゲットとなるがん細胞に照射させる「中性子照射治療室」
BNCTシステムは、2016年2月より、脳神経疾患研究所 附属 南東北BNCT研究センター(福島県郡山市、以下「南東北BNCTセンター」)で、「再発悪性神経膠腫」を対象とした世界初の治験が始まっている。南東北BNCTセンターは、2015年1月に建屋が完成したが、現在は臨床試験を行うためだけの施設として稼働している。
今回の国立がん研究センター中央病院の場合、病院内設置型のBNCTシステムとしては、世界初となる。国立がん研究センターでは、「今後、物理試験や生物試験を経て、早ければ 2016 年度中の臨床試験を目指す。
また、世界初となるリチウムターゲットの病院設置型 BNCT システムの実用化と普及、さらに DDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)を活用した集積性の高い薬剤開発、集積の診断、評価方法などについても検討し、日本発の新規治療技術の確立に挑む」としている。
参考資料
国立がん研究センター プレスリリース 世界初となるリチウムターゲットの病院設置型 BNCT システム 原子力安全技術センターの施設検査に合格
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20160301.pdf
南東北BNCT研究センター 設置装置「BNCTシステムレイアウトと機器構成について」
http://southerntohoku-bnct.com/summary/device
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
いやはや、日本の技術力ってやっぱりすごいですね。「世界初の画期的な放射線治療」って、聞いただけでも興味がわきます。
BNCTシステムに関しては、まだあまり多くの資料が公開されていないようですが、将来的には、①皮膚の悪性黒色腫 ②局所再発頭頸部がん ③炎症性乳がん ④膠芽腫 ⑤中皮腫 などで、第一選択となる可能性があるそうです。
このシステムを開発した「CICS」と、国立がん研究センターとの共同開発は、3年前からすでに始まっていたようです。つまり、実際に稼働できる状態になるまで、3年という時間が必要な、非常に大掛かりな装置である、ということになります。南東北BNCT研究センターでも、それくらいの時間を必要とし、今の姿があるのだと思います。
このシステムの実用化までには、経済産業省の医工連携事業化推進事業でも「再発がん治療のための新素材ターゲット技術を用いた加速器型中性子捕捉療法システムの開発」というテーマで採択されています。その中には、民間病院の名称もありました。整理すると、
- 南東北BNCT研究センター:世界初
- 国立がん研究センター:病院内設置型では世界初
- 江戸川病院(東京都江戸川区):民間病院で世界初になる予定 ← 現在導入準備中
となるようです。「世界初」が3つとも日本って、やっぱり日本のものづくり力といいますか、開発力ってスゴイものだなと思いました。開発したのが日本人、実際に世界で初めて運用するのも日本人。治験により、治療効果や副作用の少なさが実証されれば、いずれ世界にも広がる治療法になるのではないでしょうか。
現在は「治験」を行う段階ではありますが、数年以内には「治療の第一選択」となってほしいと思います(もちろん、保険適応で)。
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