【医療ニュースPickUp】2015年5月7日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
糖尿病網膜症 3人に1人は自覚症状なし
2015年4月23日、バイエル薬品株式会社(本社:大阪市)と参天製薬株式会社(本社:大阪市)は、2型糖尿病患者を対象とした調査結果を公表した。この調査は、2015 年 3 月に、2 型糖尿病患者1,000 名を対象としてアンケート調査を行ったもの。東京女子医科大学 糖尿病センター眼科 教授の北野滋彦教授が監修を務めている。
アンケート調査の結果、糖尿病と診断を受けたにもかかわらず、眼科を未受診、あるいは医師の指摘から1 年以上経過してからたってから受診した患者が、合わせて半数以上いることが分かった。
さらに、約20%は眼科受診を中断していることから、患者自身に眼科受診の重要性についての理解が不足している、医師などによる啓発不足、などの状況が考えられる。
また、糖尿病網膜症と診断された患者でも、診断された時点では全く自覚症状がみられなかった患者が37.5%いることが分かった。糖尿病網膜症になると「見えにくい」という自覚症状があるのが一般的だが、その時点ではすでに治療が困難となるケースも少なくない。
日本糖尿病学会による「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」では、2型糖尿病では罹病期間5年未満で17%、15~19年で57%に糖尿病網膜症の合併があるとしている。
これを予防するためにも、「診断確定時に眼科を受診させ、糖尿病網膜症の有無を評価すべきである」となっており、「以降は少なくとも年1回の定期受診が望ましく、リスクの高い例ではより短い間隔での眼科受診が勧められる」とも謳われている。
しかし、今回の調査結果からは、こしたガイドラインによる推奨が、実際の臨床現場では実施されていないことが浮き彫りとなった。
糖尿病患者を早期から眼科受診させるためには、医師や看護師などからの早期の情報提供がもっとも重要と考えられる。
例えば今回のアンケートでは、「網膜症が進行すると失明の危険性がある」「糖尿病から網膜症になる仕組み」「血糖コントロールが良好でも眼科を受診する理由」などの情報提供をきちんと受けることで、糖尿病網膜症の理解につながり、
患者のモチベーション維持に効果的である可能性がうかがえたという。
この調査結果を受け、監修の北野教授は、「医師の責任として、糖尿病合併症に関する十分な情報提供を行うこと」「医師だけでなく医療スタッフ、行政やメディアも含め、患者が眼科を受診するための行動支援を行うことで、網膜症予防や早期発見、良好な視力予後につながる」と述べている。
参考資料
バイエル薬品株式会社 糖尿病網膜症の予防に関する糖尿病患者調査より
http://byl.bayer.co.jp/html/press_release/2015/news2015-04-23.pdf
日本糖尿病学会 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_474C323031332D30372E706466
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
以前、眼科クリニックに勤務していた経験からすると、やはり糖尿病網膜症を悪化させてしまう患者さんは、糖尿病そのものに対する病識や治療へのモチベーションが今一つな患者さんが多かったように思います。
もちろん、1型糖尿病だったり、中にはモチベーションが高くても血糖コントロールが難しく、網膜症が徐々に悪化していく患者さんもいました。しかし、一応は定期的に眼科を受診していても、網膜症が悪化していく患者さんのHbA1cは、8とか9とかも普通にいたように記憶しています。2ケタの患者さんもいましたし。
中には、全く別の理由で眼科を受診していて、ある日の眼底写真で「これ、糖尿病じゃない?」と指摘され、紹介状を持って内科を受診し、糖尿病であることが分かった患者さんもいました。この患者さんは比較的若かったこともあり、食事と運動で血糖コントロールを行い、およそ1年後には眼底もずいぶんキレイになりました。
こういう「治療に対するモチベーション」が高い患者さんばかりなら良いのですが、ここ数年増加している「高齢者になってから糖尿病を発症」したケースだと、なかなか上手くいかないことも多いのではないかと思います。
しかし、内科ではやはり眼底写真は撮れませんし、内科の医師や医療スタッフが糖尿病網膜症の怖さを説くのも、難しいものがあるような気がします。もっと上手く連携できるような仕組みが、世の中に拡がると良いのですが。
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