【医療ニュースPickUp 2016年3月25日】婚姻状況の変化と脳卒中の発症リスクとの関係 JPHC Studyより
2016年3月23日、国立がん研究センター(以下、国がん)は、多目的コホート研究 JPHC Studyの研究成果として「婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連について」を公表した。この研究成果は、アメリカの医学雑誌(発行元:AMERICAN HEART ASSOCIATION)「Stroke」(2016年3月号)に掲載されている(Web公開済)。
居住形態や就労の有無による影響において性差がみられる
今回の研究は、
- 平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内に住んでいた住民
- 研究開始時に既婚であった40~69歳の男女約5万人を平均約15年間追跡
- 婚姻状況の変化(既婚から非婚)と脳卒中発症との関連を調べた
というもの。尚、既婚から非婚とは、離婚あるいは死別を意味している。
今回の研究では、平均約15年間の追跡期間中に、2,134人の脳卒中発症が確認された。その結果、調査開始時期に婚姻状況変化がある人ほど、脳卒中を発症するリスクが高い傾向が確認された。
特に、「脳出血のリスク」において強い関連がみられたが、性差は確認できなった。その理由として、既婚から非婚へと生活が変化することで、生活習慣や精神状態が変化することが考えられるという。
次に、同居する子どもの有無別にみると、婚姻状況の変化を経験し、なおかつ「子どもと同居」している男女において、脳卒中発症リスクが高い傾向が見られた。男女ともに「親」という役目を負っていることが、配偶者を失ったことによる影響を加重している可能性が示唆されるという。
また、同居する親の有無別では、男性にとっては「親との同居」が脳卒中発症リスクを高くし、一方の女性では、「親との同居」が脳卒中発症リスクを低くする傾向がみられた。
さらに、就業の状況が脳卒中リスクに与える影響をみると、
- 無職の女性の脳卒中発症リスクは高い
- 特に婚姻変化があった無職の女性のリスクは、婚姻変化のない有職の女性の約3倍
- 男性では無職者が少なく、統計学的に意味のある結果が導き出せなかった
となっている。
研究チームは、婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクの全体的な関連では性差がみられなかったことを指摘しながらも、居住形態や就労の有無による影響において性差がみられることは、「今後、脳卒中発症におけるハイリスク者を把握する際には、人をとりまく社会環境も考慮する必要があることを示している」としている。
参考資料
国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連について
http://epi.ncc.go.jp/jphc/773/3791.html
同上 婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3792.html
Stroke
Marital Transition and Risk of Stroke: How Living Arrangement and Employment Status Modify Associations.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=26931158
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
前回に引き続き、今回も「国がんのJPHC Study」の研究成果からです。婚姻関係のある状態から、離婚・死別などにより配偶者がいない生活になると、やはりそれなりにストレスなんですね。梗塞ではなく、出血系の脳卒中の方が発症リスクが高いというのは、なんとなく納得できます。ハザード比でいえば、
- 男性:出血 : 梗塞 = 1.48 : 1.16
- 女性:出血 : 梗塞 = 1.35 : 1.16
くらいなので、大差!というほどでもないのだと思いますが、その背景として、生活習慣の変化(特に、食事内容の変化とかが大きい?アルコールを飲んでしまう?)なども、関係しているようです。
また、「親としての責任」がある場合、婚姻状況の変化がある人の方が、ない人よりもリスクが高くなっていますし、「親としての責任がない」かつ「婚姻状況の変化がない」人と比べても、やはりハイリスクです。これも、自分に置き換えると、なるほどと思います。
私自身が一番分かりやすい結果だと思ったのは、
- 自分の親と同居していて、婚姻状況の変化がある男性はハイリスク
- 無職の女性で、婚姻状況の変化がある女性はハイリスク
というところでした。
これって、前者は「自分の親の今後の介護をどうするか」という点、後者は「今後の生活の基盤を無職の自分がどうするか」という点で、悩んだり、解決するために人一倍努力をすることが、ストレスになっているのかもしれませんよね。
何となくですが、今後もこういう世帯は増えるだろうなとは思いますので、より一層「予防」のための努力が、必要なのかもしれません。
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