【医療ニュースPickUp】2015年1月29日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
空腹時血糖値が高い人は膵臓癌リスクも高くなる 台湾での研究より
2015年1月、イギリスの医師会雑誌BMJのオンライン版にて、「空腹時血糖が高いほど膵臓癌リスクが高くなる」ことを証明したという論文が公開された。
台湾のNational Taiwan University HospitalのWei-Chih Liao氏らが行ったこの研究では、空腹時血糖の上昇に比例し、膵臓癌発症率が高くなることが分かったという。
これまで行われてきた研究でも、2型糖尿病は膵臓癌の危険因子であることが指摘されており、日本癌治療学会が公開している2013年度版の「膵がん診療ガイドライン」では、膵臓癌のリスク因子として
1.家族歴:膵癌、遺伝性膵癌症候群
2.合併疾患:糖尿病、肥満、慢性膵炎、遺伝性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍
3.嗜好:喫煙
が上がっている。
中でも家族歴として膵臓癌がある場合、そのリスクは対象群と比較して13倍と非常に高値である。
糖尿病についてみると、膵臓癌患者の既往歴に糖尿病がある場合がおよそ26%と高く、日本での疫学調査の結果からも、特に男性でのリスクが1.85倍とかなり高いことが分かっている。
米国では膵臓癌の糖尿病合併率は60~81%という報告もあり、全体的なリスクとしては1.8~2.1倍あると考えられている。
慢性膵炎(4~8倍)、喫煙(2~3倍)、肥満(BMI30以上では1.8倍)と比較すると少ないようにもみえるが、肥満と糖尿病はともに生活習慣によって起こる変化が原因であることからも、この2つは併せて考えていくべきであろう。
今回の研究では、過去に行われた9件の研究、計2,409例の膵臓癌患者のデータをもとにしてメタ解析を行い、血糖値と膵臓癌リスクとの量依存的な関係性について分析を行った。
その結果、空腹時の血糖値がおよそ10㎎/dL上昇するにつれて、膵臓癌になるリスクが14%高くなることが分かったという。
研究者は「膵臓癌細胞はブドウ糖をより多く摂りこむことで成長するため、このような結果になったのではないか」と述べている。
実際に、癌細胞がブドウ糖を取りこむ量としては、正常細胞のおよそ3~8倍だといわれており、2012年4月から保険適応となっているFDG-PET検査も、この特徴を応用しているといえる。
そもそも膵臓癌は、早期であるほど特徴的な症状が少なく、ある程度の症状がみられても、膵臓癌に特徴的とも言い難いため、早期診断が難しい。
膵臓癌と分かった時にはすでに進行しており、遠隔転移があるために外科手術適応とならないケースも多い。
5年生存率が非常に低く、この論文によると5%未満とされている。日本における統計でも、膵臓癌を発症した人数と膵臓癌による死亡者数はほぼ同等であり、日本の「最新がん統計」データでは
・2010年に膵臓癌を発症したのは32,330人
・2013年に膵臓癌での死亡者数は30,672人
となっており、年間およそ3万人が罹患し、ほぼ同等の人数が死亡していることが分かる。
世界全体で見ても、年間およそ23万人が膵臓癌で死亡しているが、ここ数年膵臓癌の発症率と死亡率は比例する形で増加傾向にある。
英米ではそれぞれ癌による死亡の5位と4位を占めており、日本でも男性5位、女性5位となっている。この背景にはやはり、世界的に糖尿病患者が増えていることも大きく影響していると推測される。
日本の糖尿病有病者数はおよそ720万人と推定され、世界的にみれば10位であり、中国、インド、米国などよりもだいぶ少なくみえる。しかし、全人口に対する割合では、中国は39人に1人、インドは12人に1人、アメリカは9人に1人に対し、日本は13人に1人となっている。
膵臓癌による死亡者でみると、日本の膵臓癌による死亡者数は、1994年(14,990人)から2013年(30,672人)の10年間でおよそ2倍になっている。
全世界で23万人のうち、日本が3万人であるなら、およそ13%は日本人という計算になる。日本だけをみても、今後も糖尿病患者数は増加すると推測されており、膵臓癌患者増加傾向は続くと考えられる。
参考資料
MT Pro 空腹時血糖値が高いと膵がんリスクも上昇
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2015/M48040011/
BMJ Blood glucose concentration and risk of pancreatic cancer: systematic review and dose-response meta-analysis
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g7371
日本癌治療学会 がん診療ガイドライン 膵がん診療ガイドライン
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/11.html#cq4-1
日本消化器病学会 がん診療におけるFDG-PET検査の有用性について
http://www.jsge.or.jp/citizen/2007/tyugoku2007.html
IDF DIABETES ATLAS Sixth edition 2014UPDATE
http://www.idf.org/sites/default/files/DA-regional-factsheets-2014_FINAL.pdf
がん情報センター 人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2013年)
http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#mortality
この記事をかいた人
医師キャリア研究のプロが先生のお悩み・質問にお答えします
ツイート