【医療ニュースPickUp 2015年7月19日】 医療用に特化したIDを作るべき!マイナンバー制度と医療の関係
2015年7月15日、日本医師会の「医療分野等ID導入に関する検討委員会」は、現在国が検討を進めている「マイナンバー」とは別に、複数IDを付与する検討を盛り込んだ、中間取りまとめを公表した。日医常任理事の石川広己氏は、複数IDが持てるようにする理由について、「(1つのIDだと)知られたくない過去の病歴などが分かってしまう」と指摘。他人には知られたくない「病歴の開示範囲」をコントロールできる必要性を述べている。
「医療用ID」という新しい仕組みの追加
この資料の中では、マイナンバー制度に期待される効果として、公平・公正な社会の実現、国民の利便性の向上、行政の効率化などを挙げており、これらに対しては「より公平・公正な社会を実現する上でも有用な制度であると考える」としている。
その一方で、医療情報の中には、病歴や服薬の履歴等、人によっては第三者に知られたくない情報が存在すること、医療や介護に関する情報の中には、収集する目的が複数存在することなどを挙げ、その情報の収集目的や使用用途に応じた「マイナンバーとは別の 医療分野専用の番号もしくは符号である「医療等 ID」を創設して利用するべきである」としている。
具体的な考え方としては
●一人に対して目的別に複数の医療等 ID を付与できる仕組みを検討する
●本人が情報にアクセス可能な仕組みを検討する
●情報の突合が可能な仕組みを検討する
●医療等 ID に関しての法整備の検討をする
などが挙がっている。
しかし、来年にはスタートする予定のマイナンバー制度だが、一般企業の中での対応状況は決して芳しくはない。
一般財団法人日本情報経済社会推進協会が2015年6月に行った調査によると、マイナンバー制度にすでに対応している企業はわずか3%。計画中を含めても30%程度にしか満たない。
傾向としては、比較的規模の大きな(従業員301人以上)東京都内の企業では、約半数が何らかのアクションを起こしているが、比較的小規模(従業員100人以下)で東京以外の地域の企業では、準備が遅れているという結果が出ている。
この様な状況の中で、さらに「医療用ID」という新しい仕組みを追加するには、解決すべき大きな課題もある。しかし、「他人に容易には知られたくない情報」は、国の制度という名目の上で、簡単に公開されてよいものではない。マイナンバー制度の開始まで、あと半年足らず。それまでにどこまで準備が整うのか。注目していきたい。
参考資料
日本医師会 医療分野等 ID 導入に関する検討委員会 中間とりまとめ
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20150715_5.pdf
一般社団法人日本情報経済社会推進会
「企業におけるマイナンバー制度実務対応セミナー」参加申込者アンケート結果
http://www.jipdec.or.jp/topics/news/20150602.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
個人的には、「うーん、やっぱりそう来ましたか」というところです。実はこの問題、国が「マイナンバー制度やるよ」と公表し始めたあたりから、日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会との三師会連名で、若干の抗議も含めつつ、取り組んできた問題のようです。実際には、まだ「マイナンバー制度」が公表されるずっと以前から、ある意味「せめぎ合い」をしてきたのではないかな、と思います。
まぁ確かに、自分の病歴を「医療者なら誰でもOK」というのも嫌ですし、同じ医療者でも「見られたくない医療者」もいるのではないでしょうか。そう考えると、どこかでの「紐付」は必要ですが、普段誰にでも見える形の番号で、何でもOKというのは怖いですよね。
ずっと以前、患者情報を扱うとあるシステムのコンソーシアムに参加したことがあります。その時もやはり「見られたくない医療者」は話題になりました。例えば女性患者の場合、誰にも伝えていない「堕胎」という情報がある場合が考えられます。これ自体は当該医療機関ではもちろん分かっていますが、全く別の医療機関の例えば「外科医」や「看護師」が見ても良いのか、知る必要があるのか、ということです。
仮にマイナンバーのみで制度がスタートすると、こういった問題も起きてきます。また「医療用ID」が1つだけでも、やはりこの問題は起きるのです。そういったことを考えると、同委員会が打ち出した「一人に対して目的別に複数の医療等 ID を付与できる仕組み」は賛成できます。
何だかんだ言っても、制度開始まであと半年。どこまで準備が進むのでしょうか。
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