【医療ニュースPickUp 2016年8月15日】ダニが媒介する感染症に注意 厚生労働省より注意喚起の通知
2016年8月10日、厚生労働省健康局結核感染症課は、全国の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部等に対し、ダニ媒介感染症に係る注意喚起の事務連絡を通知した。これによると、北海道においてダニ媒介脳炎患者が発生していたことが分かり、北海道庁が関係機関に対し、注意喚起を行っているという。
日本では過去1例の感染例のみだったのだが…
ダニ媒介脳炎は、マダニ科に属する各種のマダニが媒介する「フラビウイルス感染症」であり、終末宿主となるヒトに、急性の脳炎を発症させる(自然宿主はマダニとげっ歯類)。
脳炎のタイプとしては、二相性の病状を示す「中部ヨーロッパ脳炎」、二相性ではないが致死率がおよそ30%となる「ロシア春夏脳炎」の2つがあり、潜伏期間はいずれも7~14日。
世界的にみれば、毎年 6,000 人以上が発症、多い年には10,000人前後の発症が確認されている。
日本ではこれまで、1993年に北海道で「ロシア春夏脳炎」の患者が1例確認されただけであった。しかし今年になり、北海道内でのマダニ媒介性脳炎の患者が確認されたことで、改めて今回の注意喚起がなされた。
予防法としては不活化ワクチンの接種があり、ヨーロッパではすでにワクチン接種が可能となっているが、日本では未だ市販されていない。
マダニは、川や沢に沿った斜面、森林の笹原、牧草地などに生息しているため、人の管理の行き届いた場所、民家の中などでは、ほとんど生息していないため、服装などに留意し、ダニに刺咬されないことが最大の予防策である。
ダニ媒介脳炎の症状は、頭痛や高熱の後、髄膜脳炎に移行するが、実際に刺咬されてもおよそ2/3は無症状で過ごし、人と人の間での感染は確認されていない。
もし、患者の症状や所見等からダニ媒介脳炎が疑われる場合は、保健所を通じて国立感染症研究所にて検査を行う。尚、ダニ媒介脳炎の原因となるフラビウイルスは、日本脳炎の原因ウイルスでもあるため、患者への問診として日本脳炎ワクチンの接種歴を確認する。
ダニが媒介する感染症には、ダニ媒介脳炎のほか、2013年1月に初めて日本国内での患者が確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、ライム病、野兎病、日本紅斑熱などがある。これらはいずれも四類感染症に含まれており、患者を確認次第、すぐに届出を行う必要がある。
参考資料
厚生労働省 ダニ媒介感染症に係る注意喚起について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000133076.pdf
同上 ダニ媒介脳炎に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/mite_encephalitis.
html
国立感染症研究所 ダニ媒介性脳炎とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/434-tick-encephalitis-intro.html
同上 IDWR速報データ 2016年第30週
http://www.nih.go.jp/niid/ja/data/6661-idwr-sokuho-data-j-1630.html
同上 IDWR 感染症の話 2002年第4週号(2002年1月21日~1月27日)掲載
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_04/k02_04.html
厚生労働省検疫所 FORTH 感染症についての情報 ダニ媒介性脳炎
http://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name31.html
同上 病気にならないために 虫除け対策をしよう
http://www.forth.go.jp/useful/attention/14.html
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
蚊に続き、今度はダニです。
これから冬を迎える南半球では、一時的に収束に向かうと考えられている「ジカ熱」は、北半球ではこれからが感染拡大しやすい時期ですね。
でも、危険な虫は蚊だけありません。ダニも夏は一番活動性が高いシーズンですし、潜みやすい環境が整っているため(草むらとかにいる)、ダニに刺咬されることによる感染症の発症例は、すでに現れています。
今回、厚労省が注意喚起を行ったきっかけは、20年以上ぶりに「ダニ媒介性脳炎」の患者が確認されたためですが、数年前より死亡例も出ている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、今年に入ってすでに35名以上の患者が確認されています。
日本紅斑熱はおよそ100例です。ダニ(マダニ)が媒介する感染症のうち、四類感染症だけをみても、すでに150例近くの患者が確認されていることになります。日本全国でみると、結構な数ですよね。
人への感染症を媒介するマダニは、複数の種類が存在しているようです。不思議だなと思うのが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は西日本から九州エリアでの発症が多く、ダニ媒介性脳炎の患者は、今のところ北海道のみで確認されているという点です。
2015年に国立感染症研究所が行った調査によると、SFTSの患者は西日本以西に集中していますが、実際には抗体陽性であったニホンンジカは宮城県あたりでも確認されていますし、SFTS遺伝子陽性のマダニは、北海道から九州まで確認されています。
でも東日本以東では患者が確認されてはいません。このあたり、何か関係性があるのでしょうか。
例えば首都圏などで、人が家や会社で過ごす分には、ダニに刺咬されることはほとんどないと思いますが、今の時期はまだまだ、ちょっとした草むらや沢沿い、牧草地などでのレジャーには、充分気を付けてほしいと思います。
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