【医療ニュースPickUp】2015年4月20日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
医用画像の保管は病院内から雲の中へ?
2015年4月14日、キヤノンマーケティングジャパン株式会社(代表取締役社長:川崎正己、以下キヤノンMJ)は、昨年秋より提供を行っていた医用画像クラウドサービス基盤「Medical Image Place(メディカルイメージプレイス)」の新サービスの提供を開始すると発表した。
このサービスは、医療施設内の医用画像を、院内の画像サーバーではなく、インターネットを介してクラウドサービスに保管するものだという。
そもそもの「Medical Image Place」は、キヤノンMJが、株式会社メディカルイメージラボ(代表取締役会長:宮坂和男、以下MIL)と共同開発した、医用画像のクラウドサービス基盤のこと。キヤノンMJはこの基盤上で稼働させるサービスの第一弾として、2014年10月より、遠隔読影の仕組みをクラウド方式で提供する「遠隔読影インフラサービス」の提供を行っていた。
今回提供開始となった新サービスは、医療施設内においてCTやMRIなどの画像検査によって生じる、「大量の医療用画像データ」を、クラウド上に保管するというもの。
医用画像の外部保存には、患者のプライバシーやデータの秘匿度の関係から、厚生労働省などの各省庁からのガイドラインがある。新サービスでは、これらに準拠し、高度なセキュリティ対策を施しているという。
想定される利用方法としては、大きく2つのことが考えられる。
1つは、大量の医用画像は安全性を高めたデータセンターなどに多重保管されるため、院内におけるバックアップ用ストレージ構築のコストを抑えることができる。また、自然災害やシステム障害からデータを守ることも可能となり、事業継続計画(BCP)やディザスタリカバリ(DR)への対策としても利用できる可能性がある。
もう1つは、医用画像システム(PACS)など、医療画像に関連するシステム入れ替えの際に、医用画像データの一時的な保管場所としても利用することができるという。
新サービスの価格は、
・データ保管容量1GBあたりの最低月額利用料金30円からのホットデータ保管向けプラン
・より低価格なフローズンデータ保管向けプラン
の2種類があり、利用する医療機関側の利用環境に合わせて、適切なプランが選べる。
キヤノンMJでは今後、「Medical Image Place」をプラットフォームとし、3D医用画像解析技術を活用した「診断支援アプリ」など、オプションサービスも利用できる「クラウド型PACSサービス」を順次市場投入していく計画。
2017年には医療事業全体で売上350億円の売上高を目標としており、医療事業の強化・拡大とともに医療イメージング分野のリーディングカンパニーを目指しているという。
医療画像を含めた医療データは、法律上でもその保管が義務付けられている。紙カルテとフィルムの時代には「保管場所」が必要だったが、デジタル化されると今度は、利用しやすくなる反面、「保管にかかるセキュリティと費用」が問題となる。
医用画像技術の進歩により、保管すべき画像データサイズも膨大となり、「いかに安全に大量のデータを管理するのか」という問題が浮上する。
こういった外部保管サービスの利用は、院内における費用と手間の削減には繋がることは確かだ。しかし医療機関側も「便利だから利用する」だけではなく、そのデータがどのように保管されているか、どんな人物がそのデータにアクセスできるのか、万が一漏えいなどの問題が起きた時にどう対処するべきか、そのシステムの裏側もある程度は把握しておく必要があるであろう。
参考資料
キャノン ニュースリリース 2015年4月14日付
医用画像クラウドサービス基盤「Medical Image Place」新サービス“医用画像外部保管サービス”を提供開始
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2015-04/pr-medical-image-place.html
同上 ニュースリリース 2014年10月1日付
メディカルイメージラボと医用画像クラウドサービス基盤を共同開発
同社と同社の契約施設向けに「遠隔読影インフラサービス」を提供開始
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2014-10/pr-mipl.html
同上 遠隔読影インフラサービス概要
http://cweb.canon.jp/mipl/index.html
経済産業省 医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/privacy/iryouglv2.pdf
厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第 4.2 版
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000053340.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
私自身、かつては放射線科情報システムの開発に関わっていましたので、こういったサービスはとても興味があります。当時(10年以上前)でも、「遠隔読影サービス」という構想はありました。
医療画像分野のモダリティを開発・販売しているメーカーは、こぞって構想を膨らませていたと思います。
ですが、その当時問題になったのは「誰が読影するのか」という点です。やはり、お金をかけて外部の医師(誰とは分からないけど医師ではある)に読影をお願いするのであれば、少なくとも読影に(自分よりは)精通している医師に頼みたいですよね。
そういった理由で、読影医は「放射線科医であることが必須」と当時は考えられていましたが、放射線科医だって皆さん多忙ですし、いつやってくるか分からない「依頼」に対応できるような、時間的に余裕のある放射線科医を探すのが難しいということもあり、当時はなかなか前に進まなかったと記憶しています。
当時でも、技術面では「理論的に可能」なことではありましたけどね。
私自身はこういったサービスが拡がることは賛成です。それで画像撮影→読影までの時間が短縮され、より早く適切な治療を受けられるようになるなら、患者さん側もNOとはいわないのではないでしょうか。
ただ、やはり「問題(典型的には漏えい)が起きた時、誰がどう責任をとるか」という点は明確に文書で示し、違反したらとんでもないことになるよー、という罰則的なことも双方で納得しておくべきなのかなとは思います。
そもそも問題が起きなければ良いのですが、「仕事を辞める時にデータをこっそり持ち帰る」というニュースは後を絶ちませんし。理由はどうあれ、そこに人が関わる以上、感情的な犯罪というのもゼロにはなりませんので。
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