【医療ニュースPickUp 2018年4月19日】急性心筋梗塞に日照時間が関係?夏の夜間に増加することが明らかに
2018年4月3日、京都府立医科大学は、「急性心筋梗塞の発症時刻に日照時間が密接に関与しており、夏の夜間に急性心筋梗塞の発症が増加」とする研究成果を公表した。
また、日照によるビタミンDの合成が、急性心筋梗塞の発症に関与している可能性が示された。
この研究は同大大学院医学研究科 循環器内科学の大学院生、西真宏ら7カ国による国際共同研究グループによって行われた。論文は4月6日付で「Journal of the American Heart Association」オンライン版に掲載されている。
「ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)」は世界の主要死因のひとつであり、発症数が日中に多いことが知られている。また、冬に増加して夏に減少するという季節変動パターンを有する。
今回の研究対象となったのは、日本、イタリア、イギリス、フィンランド、中国、シンガポール、オーストラリアの7カ国。2004~2014年にかけて発症した急性心筋梗塞2,270症例を対象に、急性心筋梗塞における概日リズムが夏に変動するかどうかを調査した。
日中(6~18時)と夜間(18時~6時)における急性心筋梗塞の発症数の差を、夏とその他の季節に分類して解析したところ、夏は他の季節に比べて日中の発症数が減少し、夜間にシフトして増加することが明らかになった。フィンランドや英国など北極に近い国では季節による差が小さくなっていた。
一方、赤道直下にあるシンガポールは、年間を通して可照時間が変わらず四季の影響が小さい。調査によると、シンガポールでは日照時間と雨・落雷・雷雨など曇天に関わる天候指数について、日中と夜間の急性心筋梗塞数の差に強い相関がみられた。
これにより、日照時間が多いほど、急性心筋梗塞の発症時刻が昼間から夜間にシフトする傾向が強いことが明らかになったという。
また、日照によるビタミンDの合成に着目したところ、ビタミンDの合成が増加すると、日中と夜間の急性心筋梗塞数の差が減少することもわかった。
この研究成果により、季節や時間帯に応じて急性心筋梗塞に対する救急医療システムを運用することで救命率を向上できることが期待されこと、さらにビタミンDを標的とした心筋梗塞予防薬や診断マーカーの開発につながることが期待できると、同研究では述べている。
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
急性心筋梗塞の発作であれば、急激な温度変化に注意すべし、というのが通説だったのではないかと思います。
「温かいところから急に寒い屋外へ出る時は玄関先で足踏みをして体を温める」ことや、「冬の入浴時には脱衣所も温めておくように」など、暖から寒への変化に注意すること、と習ってきたような気がします。
今回の研究では「夏の夜間に急性心筋梗塞の発症が増加する傾向」とのことですので、夜でも温かい(日本は、寝苦しくなるくらいの暑さでもありますね)夏なのに?と、興味深くそのデータを拝見させて頂きました。
今回の研究成果の今後として、2点のポイントが挙がっています。
- 季節や時間帯に応じて急性心筋梗塞に対する救急医療システムを運用することで救命率を向上できること
- ビタミンDを標的とした心筋梗塞予防薬や診断マーカーの開発につながることが期待できる
特に前者については、日本では折しも新しい保健医療計画がスタートしたばかりですので、これまでの計画には無かった視点で、さらなる救命率の向上に寄与できる可能性があるのではないでしょうか。
試しに京都府の保健医療計画(2018年度から2023年度までの6年間)を拝見したところ、さすがに「夏の夜間の救急医療体制を手厚くする」とは有りませんでした。
しかし、もしこの研究成果が現実に即しており、救命率向上に大きく貢献するものなのであれば、救急医療を担う病院側で医師の勤務シフトを考慮する、消防側でも消防士の勤務シフトを考慮するなど、何かしらの変化が出てくるのかもしれません。
後者については、医療者がというよりも、製薬メーカー等の取り組みになるのかもしれませんが、心筋梗塞発症のリスクがある程度確認できれば服用するなどといった「新薬開発」が進むのかもしれません。
いずれにしても、日本だけではなく、気候の違う7か国のデータを元にした研究ですので、世界的にも何らかの影響を及ぼす可能性のある、研究成果だったのではないでしょうか。
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