【医療ニュースPickUp】2015年6月18日
医療にまつわる気になるニュースを当研究所独自の目線で掘り下げて記事にしている「医療ニュースPickUp】。このコーナーでは、まだ大手マスメディアが報道していない医療ニュースや、これから報道が始まるだろう時事的医療ニューストピックを、どこよりも半歩素早く取材・記事化していくコーナーです。
心肺蘇生は胸骨圧迫のみでも有用 京大
2015年6月11日、京都大学(以下、京大)は「胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及が院外心停止後生存者数増加に寄与する」とした研究成果を公表した。
この研究は、同大学環境安全保健機構の石見拓教授ならびに川村孝教授、大阪大学医学系研究科の北村哲久助教、東京女子医科大学の清原康介助教らのグループによるものであり、その研究成果は、2015年6月5日付で「Circulation」誌にオンライン掲載されている。
今回の研究では、総務省消防庁全国ウツタイン記録から、2005年1月~2012年12月まで8年間で救急隊に蘇生された、院外心停止患者のデータの解析を行った。
評価項目は「市民による胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及の影響」であり、主要転帰は「院外心停止1か月後の社会復帰」とした。
研究グループは、市民による心肺蘇生によって社会復帰した院外心停止者数を、寄与生存数(人口1000万人あたり)として推計し、その経年的変化について検討した。心肺蘇生の方法につては、「胸骨圧迫のみの心肺蘇生」もしくは「人工呼吸つきの心肺蘇生」を基準にグループ化し、両方のグループを統合して「心肺蘇生全体」とした。
解析対象となったのは、観察期間中に院外心停止となった患者816,385人。そのうち、
- およそ30.6%にあたる249,970人が胸骨圧迫のみの心肺蘇生を受けた
- およそ12.3%にあたる100,469人が人工呼吸つきの心肺蘇生を受けた
- およそ57.1%にあたる465,946人が心肺蘇生を受けていなかった
というデータが確認された。
解析を行った結果、以下のことが分かった。
- いずれかの心肺蘇生を受けた人は、34.5%から47.4%と大きく増加
- 胸骨圧迫のみの心肺蘇生を受けた人は、2005年の17.4%から2012年 の39.3%へ増加
また、社会復帰をしたと推計される院外心肺停止者数(人口1,000万人あたり)は
- 胸骨圧迫のみの心肺蘇生では2005年の0.6人から 2012年には28.3人へ増加
- 心肺蘇生全体では2005年の9.0人から2012年には43.6人へと有意に増加
というこが分かった。これらの結果から、日本における院外心肺停止後の社会復帰数の増加と、市民救助者に対する胸骨圧迫のみの心肺蘇生の国家規模の普及との関連性が見いだせたとしている。
この研究の背景として、2000年以降、院外心停止後の患者に対する最良の心肺蘇生は何かということが激しい論争になっていたことが挙げられる。
これまでは個人単位での比較に焦点をあてた研究しか行われておらず、「市民に対して胸骨圧迫のみの心肺蘇生を普及すること」が、院外心停止患者の生存者数の増加にどの程度寄与するのかは、ほとんど分かっていなかった。
一方、胸骨圧迫のみの心肺蘇生は比較的簡易に行えることから、一般市民への教育、普及、実践が容易となる。日本での心臓突然死は、年間 7 万人と報告され、世界的にも健康施策上の最重要課題の一つとなっている。
2010 年の日本版心肺蘇生ガイドラインでも、従来の人工呼吸付の心肺蘇生が基本で、胸骨圧迫のみの心肺蘇生は入門編という条件はあるものの、胸骨圧迫のみの心肺蘇生の教育が推奨されている。
研究グループは「胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及は、世界的にも先進的な試みであり、日本は胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した心肺蘇生普及の先進国である。今回の検討結果は国家レベルでの胸骨圧迫のみの心肺蘇生を活用した、心肺蘇生普及の効果を示す貴重な結果である」と述べている。
参考資料
京都大学 ニュースリリース
Dissemination of Chest Compression-Only Cardiopulmonary Resuscitation and Survival After Out-of-Hospital Cardiac Arrest
胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及が日本の院外心停止後生存者数増加に寄与 -総務省消防庁の全国院外心停止調査-
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/documents/150611_2/01.pdf
【医師紹介会社研究所’s Eye =記事への所感=】
もし日常生活の中で、心肺停止の人を見つけても、一般市民はなかなか「AEDを使って蘇生する」とか「心肺蘇生を行う」とか、なかなか踏み込めないことではないかと思います。そのハードルとなっていたのが、やはり人工呼吸なのではないでしょうか。
数年前から、万が一病院外で人工呼吸を行うことになった時に使用できる「人工呼吸用マウスシート」なるものが、一般向けにも販売されています。私自身も1つ持っているので、いつも持ち歩く鞄に入っていますが、果たして一般市民の中に、こういったものを持っている人は、どれくらいいるのでしょう。
とりあえず「マウスシート」があれば、見ず知らずの他人でも人工呼吸に対する躊躇はだいぶ減りますが、例えば道端で全く知らない人が心肺停止状態になっているのを見つけても、「どこの誰だか分からない人に人工呼吸はちょっと…」と考えるのは、一般市民であれば当然の感覚かもしれません。
その点、「とりあえず胸骨圧迫だけで良いから、救急車が来るまで頑張って!」なら、対応しようとする人も増えてくるのではないかと思います。もちろん、その為には市民講座などで、「胸骨圧迫による心肺蘇生」について学んでおくことが必要かもしれませんが、これだけなら講座開設側の負担も減りそうですし、一般市民への普及という意味では、とても有意義な研究ですよね。
例えば、運転免許を取得する講義の中でも「応急救護処置」の講義があるわけですから、その中に「胸骨圧迫による心肺蘇生」を含めても良いのではないかと、個人的には考えます。
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